ここからしか見えない京都
  
鏡餅型のうつわの中に、唐墨(からすみ)大根、菜の花、梅ビーツが並ぶ「三宝」© KBS京都/TOKYO MX/BS11

旧宮家ゆかりの和洋折衷建築 美を共有する京宿「吉田山荘」

「立春大吉」 季節の喜びをわかちあう料理と和歌

日本映画の父と呼ばれた牧野省三が、真如堂で「本能寺合戦」を撮影したことから記念碑が建てられた。「私たちが今お仕事させていただけるのは、ここから始まったということですね。感慨深いです」と常盤貴子さん© KBS京都/TOKYO MX/BS11

この冬、何度も雪が舞った京都。底冷えの寒さが続く中でも、立春を過ぎると、日の長さや花のつぼみに少しずつ春の気配が感じられるようになります。古来の暦を大切にする京都において、立春は一年のはじまりとされる大切な節気。節分祭でにぎわう吉田山の東、「京都映画誕生の碑」が建つ真如堂にもほど近い住宅街に、料理旅館「吉田山荘」はあります。

雪の舞う「吉田山荘」の表唐門。宮大工棟梁(とうりょう)の西岡常一氏により、1932(昭和7)年に建てられたもの。京都市内で唯一の作© KBS京都/TOKYO MX/BS11

この季節になると、「吉田山荘」の恵方巻きを求めて訪れる人も多い料理自慢の宿。四季折々の味覚を繊細に表現した京会席を、庭園を眺めながらいただくことができます。鏡餅を模したうつわにあしらわれたお札には「立春大吉」。人々と世の幸せを願うこの言葉とともに、名物・千古(ちこ)餅をあんかけにした「カニ蕪(かぶら)みぞれあん」「甘鯛(あまだい)のとっくり蒸し」など体を芯から温める料理が続きつつ、随所に春の兆しを告げる食材がちりばめられます。

「立春大吉」の札と紅白の水引があしらわれた、鏡餅型のうつわ© KBS京都/TOKYO MX/BS11

そして、「吉田山荘」で味わえるのは料理ばかりではありません。訪れた旅人に一つひとつ手渡すのは、その季節ごとに万葉集や古今和歌集から大女将(おかみ)・中村京古(きょうこ)さんが選んだ和歌。

「その席に合うもの、季節のものを選ばせていただいて、おもてなしの一つとしてもらっていただいております」(京古さん)

全室庭園を見渡せる客室で季節の京料理がいただける。大女将・中村京古さん(左)と常盤貴子さん© KBS京都/TOKYO MX/BS11

常盤貴子さんに贈られたのは、菅原道真が5歳の時に詠んだ歌「美しや 紅の色なる 梅の花 阿呼(あこ〈道真の幼名〉)が顔にもつけたくぞある」。春の訪れに心躍るピュアな気持ちに、思わず笑みがこぼれる一首です。

東伏見宮の感性映す和洋折衷建築

東伏見宮の別邸として建てられ、総桧(ひのき)造りの外観と洋風のディテールを持つ和洋折衷建築© KBS京都/TOKYO MX/BS11

「吉田山荘」の建物は、昭和天皇の義弟・東伏見宮の別邸として1932(昭和7)年に建てられました。総桧(ひのき)造りの重厚な建物に、皇室ゆかりの裏菊紋があしらわれた瓦屋根、直弧文鏡(ちょっこもんきょう)という古墳時代の銅鏡の背面をモチーフにしたステンドグラス、奈良・法隆寺金堂の欄干と同じ「卍(まんじ)崩し」という文様を用いたテラスなど、自ら設計に携わったという東伏見宮の感性が随所に感じられます。

ステンドグラスの窓が美しい「花の間」は東伏見宮妃が利用していた部屋© KBS京都/TOKYO MX/BS11

東伏見宮のガレージとして使われていた建物を再生し、2007年、カフェとして生まれ変わったのが「カフェ真古館」。「吉田山荘」の敷地内にあり、宿泊客以外も立ち寄ることができます。ここでも、その季節に合わせた和歌のプレゼントが。比叡山や如意ヶ嶽(にょいがたけ)の映る窓辺に、宮家が、数々の文人墨客が、千年前の都人が眺めた景色に心を重ねます。

ケーキセットに添えられたのは、大伴家持の一首「新しき 年の初めの 初春の 今日降る雪の いやしけ吉事(よごと)」。雪がしんしんと降り積もるように、めでたいこともどんどん積もって欲しい、という意© KBS京都/TOKYO MX/BS11

「手前どもの理念が(「真実一路」と)他にもございまして、『美しいものへの憧れと共有』を掲げております。京都は千年以上前から、書の世界、伝統芸能、うつわやお料理、お庭、そして着物、あらゆる芸術文化の宝庫でございますので、お客様に喜んでいただけるようにお務めさせていただけたら」(京古さん)

海外留学の経験を持つ京古さんの娘・知古(ともこ)さん。京古さんから書の手ほどきを受け、日本文化の学びも深める© KBS京都/TOKYO MX/BS11

和歌に込められた、季節を感じる喜びや大切な人を思う気持ち。それらは千年の時を経てもなお、私たちの心に響きます。海外からの宿泊客には、京古さんの娘で現在女将を務める知古(ともこ)さんが英訳を添えます。一筆一筆真心を込めて、選んだ句を書にしたためます。

テラスからは、真如堂や平安神宮、大文字山などが一望できる© KBS京都/TOKYO MX/BS11

いつの時代も変わることのない人の思い。それは美しいものを美しいと感じる心だけではありません。美しいものを大切な人に見せたい、伝えたい、わかちあいたいと願う、共有の精神。それこそが歌となり、料理となり、もてなしとなって、今も私たちに共感と共有の喜びを伝えてくれているのでしょう。

京都画報 第5回「至高の京宿 気品と美の系譜
BS11オンデマンドにて、2月13日(日)正午~ 2週間限定で見逃し配信中。
番組公式ホームページはこちら

【次回放送情報】
京都画報 第6回「御所文化の薫り
3月9日(水)よる8時~
京都の地で大きく花開いた雅な文化に触れてみませんか?約1000年の長きにわたって日本の都だった京都。794年の桓武天皇による平安京遷都によって、京都御所を舞台に天皇や貴族による宮中文化が花開き、かな文字をはじめとする日本ならではの文化・芸術が誕生しました。御所の儀式や暮らしの中で使われた調度品や生活道具は、天皇や貴族たちの洗練された感性と京都の町衆の匠の技によって磨かれ、京都の文化を育む礎になりました。3月の京都画報では、今も京都のまちに受け継がれている、華麗なる御所文化の世界へ、俳優の常盤貴子さんがご案内します。

この記事を書いた人
大橋知沙 おおはし・ちさ 編集者・ライター
 
東京でインテリア・ライフスタイル系の編集者を経て、2010年京都に移住。 京都のガイドブックやWEB、ライフスタイル誌などを中心に取材・執筆を手がける。 本WEBの連載「京都ゆるり休日さんぽ」をまとめた著書に『京都のいいとこ。』(朝日新聞出版)。編集・執筆に参加した本に『京都手みやげと贈り物カタログ』(朝日新聞出版)、『活版印刷の本』(グラフィック社)、『LETTERS』(手紙社)など。自身も築約80年の古い家で、職人や作家のつくるモノとの暮らしを実践中。  

朝日新聞デジタルマガジン&Travelに掲載
(掲載日:2022年2月16日)

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