ここからしか見えない京都
  
午後8時20分に点灯される「鳥居形」。ふもとの広沢池では灯籠(とうろう)流し。

「京都五山(ござん)送り火」を追いながら 伝統文化に出合う、夏の京都

京都の夏の暑さは、仁和寺周辺の御室(おむろ)で『徒然草』を執筆した吉田兼好が「家の作りやうは、夏をむねとすべし」と記したほど。家づくりをはじめ、料理やしつらい、行事などに、涼しくやり過ごすための工夫がそこかしこに宿る夏こそ、京都の伝統文化が輝きを放ちます。
(写真:田口葉子、久保田孤庵/取材・文:安藤菜穂子/構成:朝日新聞ボンマルシェ編集部)

古都の精霊文化。
今夏、ちょっと特別な京都を 歩いて、観(み)て、食して……

新型コロナの影響により、日本では現在も観光目的の入国を一部制限中。以前は観光客で溢(あふ)れかえっていた京都ですが、この夏は”通常よりは混雑も少ない最後の(?)夏”といわれ、混雑を嫌って京都への旅を諦めていた人々も、改めて京都に足を運んでいる模様。7月に開催された祇園祭も3年ぶりに山鉾(やまほこ)巡行が行われ、多くの人々が楽しみました。

京都の夏を締めくくる行事が、8月16日(火)に行われる「京都五山送り火」です。こちらも3年ぶりに、全面的に点火が行われる予定です。北に向かって右から、東山如意ヶ嶽の「大文字」、松ヶ崎西山(万灯籠山)と東山(大黒天山)の「妙法」、西賀茂船山の「船形」、大北山の大文字山の「左大文字」、嵯峨鳥居本曼荼羅山の「鳥居形」が京都市中心部を半円形に囲みます。改めて、京都が山に囲まれた盆地であることが実感されます。すべての山の送り火が、京都市登録無形民俗文化財に指定されています。

京都では、先祖の霊を「お精霊(しょらい)さん」と呼び、8月7日頃からお精霊さんをお迎えし、精進料理でおもてなしをしたあと、送り火を灯(とも)してお送りするのが習わしです。「送り火」は、かつては五つの山だけではなく各所で行われていたそうで、起源も諸説あります。人々の信心により受け継がれてきた伝統行事だからこそ、さまざまないわれが伝わっているのでしょう。点火には、地元の人々が先祖や大切な人の無事息災を祈念して納めた護摩木が使われ、点火中は、それぞれの山の寺院で読経などが営まれます。広範囲に行われるダイナミックな行事ですが、地元の人々がご先祖さまを送るための大切な時間であることを忘れないようにしたいものです。

午後8時
東山如意ヶ嶽「大文字」地図①

最初に浮かぶ「大」の文字。午後7時から山上の弘法大師堂で護摩木により灯明がともされ、大文字寺(浄土院)の住職らにより般若心経があげられた後、点火される。賀茂川(鴨川)堤防から見られる。

午後8時5分
松ケ崎「妙法」地図②

松ヶ崎の西山(万灯籠山)に「妙」、少し離れた東山(大黒天山)に「法」が点火。西山では点火の際に読経が、午後9時頃から涌泉寺で「題目踊」「さし踊」が行われる。北山通や高野川堤防が見物場所。

午後8時10分
西賀茂船山「船形」地図③

山のふもとの3町55軒の旧家の人々により準備される。鉦(かね)を合図に点火され、住職による読経が行われる。北山通の北山大橋付近から見られる。終了後は西方寺にて読経と六斎念仏が行われる。

午後8時15分
大北山「左大文字」地図④

法音寺門前通りで焚(た)かれた門火が先祖の霊を導き、境内の親火台では護摩木が焚かれて先祖の霊をなぐさめる点火法要が営まれる。その後親火松明が山上に運ばれ、点火。金閣寺付近で見られる。

午後8時20分
北嵯峨水尾山(曼荼羅山)「鳥居形」地図⑤

嵯峨鳥居本町の集会所から山上へ薪(まき)が運ばれ、点火される。ふもとの広沢池では児神社で塔婆施餓鬼供養と御詠歌奉納が行われたのち、仏様の五つの智恵を表す5色の灯籠が浮かべられる。

川床、鱧(はも)、仕出し弁当……優雅な食文化

もう一つの京都の夏の風物詩が、鴨川沿いと、上流の貴船の「川床」です。現代風にいうと、川の上に張り出したテラスで涼みながら食事を楽しむ風習です。起源は、鴨川沿いは江戸時代、貴船は大正時代。盆地独特の暑い京都で生まれた、優雅な遊びです。そこで供される夏の味の代表格が、鱧。暑い夏に、遠い海から京まで運ばれてもしぶとく生きている生命力の強さがありますが、小骨が多いため、骨切りという包丁技術が磨き上げられました。季節感を大切にする京都伝統の味は、川床だけでなく、元祖デリバリーともいえる「仕出し」でも楽しめます。かつては”もう一つの台所”として町に根付いていましたが、現在でも、宴席や、年中行事を大切にする京都人の食卓を彩る独特の食文化として伝わっています。特長は、冷めてもおいしくいただけること。その一端は、仕出し料理屋によるお弁当で、楽しむことができます。日中に注文して帰りがけに受け取り、帰路の新幹線でいただく。旅の風雅な締めくくり方です。

鴨川の川床の正式名称は「鴨川納涼床」。鴨川の脇を流れるみそそぎ川の上に設けられる。
京都の夏の味、鱧。名店「祇園 さゝ木」の一品。

※写真は、京都在住の写真家、田口葉子さんと久保田孤庵さんが長年かけて撮影したものです。

第47回京の夏の旅
文化財特別公開もすごい!


今年は、源氏の重宝と世界遺産をテーマに、通常は非公開の文化財が期間限定で公開されます。

・北野天満宮 宝物殿 7月9日(土)~9月30日(金)
・旧嵯峨御所 大覚寺霊宝館 7月9日(土)~9月12日(月)
・仁和寺 金堂・御影堂 7月9日(土)~9月30日(金)
・龍安寺 仏殿・西の庭 7月9日(土)~9月30日(金)
・上賀茂神社 本殿・権殿 7月9日(土)~9月30日(金)
・下鴨神社 本殿・大炊殿 7月9日(土)~9月30日(金)
・旧三井家下鴨別邸 8月19日(金)~21日(日)、26日(金)~28日(日)

※上記を効率的に巡る夏だけの定期観光バス特別コースあり

生中継!京都五山送り火2022
放送日時:8月16日(火)よる7時3分~8時53分
※BS11(イレブン)にて放送

制作著作 KBS京都/BS11

朝日新聞ボンマルシェに掲載
(掲載日:2022年8月12日)

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