ここからしか見えない京都
  

二十一回目「大丸ヴィラレポート!」

今さらですが、このエッセイのテーマは、「今、気になるもの」です。
そんなわけで私は、実際に今気になっているもの、これまで気になっていたものをここで紹介させていただいてきました。

今回は私が京都に来てから、ずっと気になっていたところをご紹介させていただこうと思います。
それはというと、地下鉄丸太町駅を出て、すぐのところにある趣きのある洋館
大丸ヴィラです!

「大丸」の名から分かるように大丸初代社長・下村正太郎の元邸宅でした。
建てられたのは、昭和7年(1932年)、(設計はヴォーリズ事務所)
チューダー様式を特徴としていることから『中道軒(ちゅうどうけん)』と名付けられたそうです。

普段この洋館は非公開であるため、私もずっと気になってはいたものの、前を通り過ぎるだけの日々を送ってきました。

それが、去年、京都市で開催された『京都モダン建築祭』というイベントで大丸ヴィラを見学できることになったのです!
とはいえ、すべての方が見学できるわけではなく、抽選でした。
ダメ元で応募したところ、なんと当選!
小躍りして喜んでいたのですが、SNSを見ていると、結構な方が外れてしまい、落胆しているのを知りました。

これは、なんとしても大丸ヴィラのレポートを書いてどんなところだったか発信しようと心に誓ったのです。

ところが、見学に行ってみると、
「内部の写真撮影はOKですが、SNSをはじめ、ネットにUPするのは禁止とさせていただきます」
とのこと!!!

なんということでしょう!
これでは、大丸ヴィラのレポートができない!
ですが、
「写真さえUPしなければ、大丸ヴィラの様子を書くのは問題ありませんよ」
レポート自体はOKでした。

私もまがりなりにも物書きですし、文章だけでお伝えすれば良い話なのですが、小説の中の描写ではそれができたとしても、こうしたエッセイで画がないのは、やはり寂しいもの。

それならば、絵はどうだろう?
と思った私は、確認をしました。

「写真を基に描いたイラストは大丈夫ですか?」
「写真じゃないのでしたらOKです」

そのように、了承を得ることができたので、イラストでお届けをいたします。
(イラストに描き起こしてくれたのは長女です)

塀の向こうがどうなっているのか、分からなかった大丸ヴィラ。
いよいよ全貌が明らかになります。

レンガと石造りが混在した外壁がお洒落です。
ちなみに、レンガのように見えた部分は、レンガではなく、『スクラッチタイル』というものでした。

『スクラッチタイル』とは、細かい溝模様があるタイルのことで、ここで使われているのは、別名『泰山(たいざん)タイル』というそうです。

『泰山タイル』とは、池田泰山という陶工が考案したもので昭和初期に大流行し、多くの名建築で使用されているとのこと。
『泰山タイル』のファンも多く、『泰山タイルを見てまわるツアー』なども人気だとか。

外観に見惚れつつ、屋敷に足を踏み入れると、広々とした玄関ホールです。
ここで何より目を惹いたのは、高い天井と小ぶりなシャンデリア、そして海外のテレビなどで見かけるような鹿の頭部の剥製!

正式には、ハンティングトロフィーというそうです。
昨今は動物愛護の観点から、この手の剥製は少なくなってきているようですが、私が子どもの頃、たまたま招かれた大きな家にあり、
「これがお金持ちの家!」
と、驚いた記憶があり、私にとっては豪邸の象徴でした。
ですが、ここの鹿は、あの時の鹿よりも遥かに大きく立派な角を持っています。
まさに、昭和の大富豪の屋敷という風格です。

下村正太郎は、屋敷を建てる前にロンドンを訪れていて、リバティ百貨店の外観を見て、とても気に入り、自邸を建てる際の参考にしたそうです。

リバティ百貨店 画像素材:PIXTA

つまり、大丸ヴィラは、下村正太郎の理想や美意識を詰め込み、己が持つ溢れる財で、具現化した究極の私邸ということです。

かつて『お城に住みたい』と夢見ていた私にとって、ハッキリ言って羨ましくて仕方ありません。

建物内を観察しながら、もし自分が理想の屋敷を建てるなら……と、ついつい妄想も捗ります。

幾何学模様をほどこした漆喰(しっくい)の天井の居間に、そこから続くイギリスのマナーハウスのような食堂。
どこを見ても家主のこだわりが感じられ、素晴らしくて、ため息が出ます。
(イラストで描けずすみません)

こだわりといえば、この窓を見てください。
窓に『SS』という紋様。
これは『下村正太郎』のイニシャルです。

ここで、談話でもしていたのでしょうか?

また、珍しく思ったのは、玄関ホールの床が石造りだったことです。

まるで海外の遊歩道のよう。
これが室内の床だとは!
聞くと、土足で入る屋敷だったそうです。

第二次世界大戦後、一時的に米軍がこの屋敷を使っていたそうですがここが選ばれた理由の一つに土足で入れる屋敷というのがあったとか。

屋敷をぐるりと見てまわり、裏に出ると広い庭がありました。
ちなみに裏側から見た屋敷は、こんな感じです。

裏側には一階と二階に広いバルコニーがありました。
ああ、こんな家に住めたら素敵だなぁ、と思いましたが、やはり、実際に住むとなれば、こんな大豪邸は大変そうです。

さて、この大丸ヴィラ。
イベント等でこのように公開され始めたのは、近年のことで、それまでは閉ざされていて、時々空気の入れ替えをする程度だったそうなんです。

ですが、公開することが決まり、あらためて屋敷を見ると、室内はカビだらけ、壁紙やカーテンは朽ちているし、庭は木で鬱蒼として、人が入れる状態じゃなかったとか。

「掃除がものすごく大変だったんです。木も何本も抜いたんですよ」
と、担当者さんが遠くを見るような目で囁いていました。

ですが、昭和初期に建てられた建物がここまでしっかりしているのは、さすがですよね。

こうして、ずっと気になっていた大丸ヴィラを見学することができ、本当に嬉しく思ってます。

ちなみに、2月15日に発売した京都寺町三条のホームズ19巻はこの時の取材を活かして、古い洋館のシーンを取り入れてみましたので、もしよろしかったら……。

京都寺町三条のホームズ 19 拝み屋さんと鑑定士(双葉社)

あらためて、『京都モダン建築祭』という素敵なイベントを企画・実行してくださった関係者の皆様に、心から感謝申し上げます。
(ぜひ、今後も開催をしていただき、大丸ヴィラをはじめとした京都の名建築に触れる機会を設けていただけたら嬉しいです!)
ありがとうございました。

【新刊案内】
3月28日 コミック版 京都寺町三条のホームズ11巻
漫画:秋月壱葉 / 原作:望月麻衣

コミック版 京都寺町三条のホームズ 11(双葉社)
この記事を書いた人
望月麻衣
 
京都在住の道産子。もの書き。 『京都寺町三条のホームズ』(双葉社)『わが家は祇園(まち)の拝み屋さん』(KADOKAWA)『京洛の森のアリス』(文藝春秋)『太秦荘ダイアリー』(双葉社)など書籍発売中。  
 

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