著名な文化人を輩出し、多くの大学が点在する京都には書店文化がいまも残されています。今回、常盤貴子さんが個人商店ならではのこだわりや独特の趣を持つ書店をめぐり、京都の豊かな書店文化に出合います。
市内の繁華街、河原町三条にある「キクオ書店」は、創業100年の古書店。美術書や歴史書、宗教哲学書などを扱っていますが、書店の奥には古今東西の書物を取りそろえた小さなサロンがあります。コレクターにゆっくり見てもらいたいと、2代目店主の前田司さんが20年ほど前に開設。息子の智(さとし)さんが3代目として店を引き継いだときに、日本の古い書物である「和本(わほん)」を買い集め、サロンのコレクションをさらに充実させました。中には教科書に載っていた杉田玄白(すぎたげんぱく)の『解体新書』や、その原本となったクルムスの『ターヘル・アナトミア』など、博物館級のお宝も。また “世界で一番大きな本”といわれるメキシコとグアテマラの蘭の図鑑は、なんと1冊が重さ20キロ。現存するのはわずか12冊ほどといわれる希少なものです。
一方、智さんの弟、前田元(もとい)さんは、京都御苑の南で「Restaurant MOTOÏ レストラン モトイ)」を経営しています。書店の2階に住んでいた幼少期、店にあるのは難しい本ばかりで、唯一読めたのが西洋の料理本だったそう。それが料理の道に進んだきっかけに。店内に飾られているのは、実家の古書店で見つけた絵画です。古書店の遺伝子がここにも……。京都の食文化をフレンチに仕立てた料理は大好評で、予約がとれないほどの人気を博しています。
印刷・出版業で美術文化を継承、発信するのが中京区の「便利堂」。創業は1887年、本社隣にショップを併設し、絵葉書や出版物を販売しています。また全国の美術館や博物館でも便利堂の製品が置かれています。便利堂の印刷物の特徴は「コロタイプ」という、およそ170年前のフランスで誕生した写真製版技術を用いていること。コロタイプは滑らかで深みのある質感で、手書きのような風合いが特徴。でも、何枚も版を作らなければならないことから膨大な手間暇がかかり、大量生産はできません。本社1階の印刷工房にはいまも5台の印刷機が稼働し、職人たちが時間を惜しまず、丁寧な作業を続けています。
中京区の三条通にほど近い、マンション一室にあるのが「アスタルテ書茶房」です。常盤さんも憧れだったという「アスタルテ書房」は、1984年に初代店主・佐々木一彌(かずや)さんがコレクションした澁澤龍彦や生田耕作など、幻想文学を中心とした古書店です。2024年に一度閉店してしまいましたが、この店のファンの一人で京都大学文学部出身の西條豪さんが、2025年3月から新たな書房の歴史を刻むことになりました。佐々木さんこだわりの空間と豊富な蔵書を生かしつつ、コーヒーやお酒も楽しめる「アスタルテ書茶房」としてリニューアルオープン。西條さんおすすめの蔵書を紹介された常盤さんも、マニアックな一冊に感動しきり。淹れたてのコーヒーを味わいながら、耽美な世界観に酔いしれました。
【次回放送情報】
■京都画報 第44回「京都・書店の歩き方!―あなたの一冊を見つけに―」
BS11にて5月14日(水)よる8時00分~8時53分放送
出演:常盤貴子
※ 放送後、BS11+にて5月14日(水)よる9時~ 2週間限定で見逃し配信いたします。