ここからしか見えない京都
  

第39回「菊水の露と美と茶席 / 祇園祭 菊水鉾」

京都の夏といえば、やはり祇園祭。
7月1日から約1カ月にわたり、さまざまな神事や行事が町を彩ります。その中でも特に印象的なのが、山や鉾が通りに立ち並ぶ「山鉾巡行」の風景ではないでしょうか。まるで動く美術館のように、絢爛な装飾と伝統美が京の町を鮮やかに染め上げます。

祇園祭の起源は平安時代、貞観11(869)年。都に疫病が流行した際、人々は災厄の鎮静を願い、当時の国の数にちなんだ66本の矛を神泉苑に立て、祇園社の神輿を迎えて祀ったのが始まりとされています。

町衆たちの熱い想い、美術工芸への誇り、そしてその技を受け継ぐ職人たちの手仕事。
山鉾ひとつひとつには語り尽くせない物語が宿っており、まさに一基ごとに小さな美術館のようです。

そんな66基の山鉾の中でも、私がとりわけ愛着を感じるのが「菊水鉾」。
その名の由来は、能の演目『菊慈童』にもなった中国の伝説にあります。菊の葉にしたたる露を飲み、不老長寿を得て700歳まで生きたという少年と、薬水にまつわる物語──。菊水鉾の随所には、菊の花が印象的にあしらわれており、まさにこの「お花便り」にふさわしい鉾かもしれません。

今年の祇園祭には、東京から友人が訪ねてくれ、ともに菊水鉾を訪れました。
山鉾の中には女人禁制のところもありますが、菊水鉾は女性も登ることができる鉾のひとつです。

海老名峰彰氏の鳳凰の懸魚(げぎょ)、皆川月華先生による雲龍図の天井幕、三輪晁勢先生の天井絵──。その他、細部に宿る美の数々が、この鉾を唯一無二の美術館にしています。

拝見したあとは、お茶席へ。
菊水鉾では、毎年7月13日から山鉾巡行前日の16日までの4日間、「菊水鉾茶席」が開かれます。
私たちが伺ったときも、夏着物のご婦人方や舞妓さんがいらっしゃり、会場は華やかな雰囲気に包まれていました。

代々大切に守られてきたお道具があり、毎年7月13日には、この日だけ拝見できる愛らしい水差しが登場します。その懐かしくあたたかな佇まいに、菊水鉾の気品とぬくもりを感じました。

かつてこの場所には、えびす山もあったそうです。
私たちは偶然正面のお席で、えびす様と目が合うように座らせていただき、大感激でした。

ところで、菊水鉾の胴懸には七福神のうち六福神のみが描かれているのはご存じでしょうか。えびす様は“こちら”にいらっしゃるためだったのです。

さて、菊水鉾でのお茶席の楽しみはなんといっても、銘菓「したたり」。
こちらをいただくと、700年!の命を授かるといわれています。

(菊水の露と長寿にまつわるお話は、第7回「菊露のうたと美しいひとを訪ねる/大田垣蓮月」でも触れさせていただきました。)

いただいたこの命の雫を、私は光として、美しさとして、
一筆に、ひと露、ひと露と
絵に宿していけたら…

そんな祈りにも似た想いを胸に刻んでいました。
そして、また来年も、菊水鉾に会いに行きたいと思っています。

この記事を書いた人
定家亜由子
 
京都在住の日本画家。伝統画材にて花を描く。
高野山大本山寶壽院 襖絵奉納
白沙村荘 橋本関雪記念館 定家亜由子展等、個展多数。
画文集『美しいものを、美しく 定家亜由子の日本画の世界』(淡交社) 刊行。  
 

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