北半球では、花盛りとなる季節。そんな5月の満月のことをネイティブアメリカンは、フラワームーンと呼んだそうです。日本でも最も華やかに様々な花が咲き乱れる5月のころは、私が1年で最も好きな季節です。
大好きな行事やお祭りもたくさんあり、賀茂社(上賀茂神社・下鴨神社)で行われる賀茂祭(葵祭)もそのひとつです。
その起源は、1500年前にさかのぼり、欽明天皇の代の年の旧暦4月、風雨が続き人民が難渋していたため、占いに従い、賀茂の大神の祭りをしたところ、たちまち風雨が治まり豊作となったことがはじまりと伝えられています。平安遷都の後、賀茂社は国家鎮護の守護神の役割も担うようになり、嵯峨天皇の代には最愛の皇女であった内親王が賀茂社に仕えるようになってからは国を挙げてのお祭りとなったそうです。
葵祭の数ある行事の中でも、多くの方にとって心躍る見どころは、やはり毎年5月15日に催行される「路頭の儀」かと思われます。今年は、13日の満月から2日後がその日にあたりました。平安装束をまとう総勢500人の行列で、馬は36頭、藤の花を巡らせた牛車、より一層華やかな女人列、そして、斎王代(はじまりは内親王である斎王)をのせる腰輿(およよ)などが御所から下鴨神社での御神事を経て、上賀茂神社まで8キロメートルの道を練り歩く圧巻の光景、その華やかで優美な行列はまさに豪華な王朝絵巻の世界そのものです。
十二単をまとう斎王代の座姿や、女人の列の色とりどりの皇女の衣装など見どころは書き尽くせないのですが、私が最も注目してしまうのは、やはり、車や衣装を飾る花々です。特に、風流傘(ふりゅうがさ)と呼ばれる造り花で飾られた大きな花傘の鮮やかさと迫力には驚かされます。大きな傘に錦の引幕が房をたらし、その上に、あふれんばかりにこれでもかと5月の花で装飾された花傘は必見です。この風流傘を持つ専門の役職まであるそうで、「取物舎人(とりものとねり)」が交代で傘を持ちます。きっと力持ちでなければ、この役割は難しいでしょう。取物舎人の装束の袖には、他の役職の方の袖にはない小さな造り花を着けておられて、それが何とも可愛く見えました。
行列は地元や観光の方々に見守られ、ゆっくりと進んでいきます。便利だったり、軽かったり、楽ちんだったり、そんな合理性や利便性よりも「美しさ」を第一とすること。それが、お祭りであり、芸術でもあるのだと私は考えます。そして、その「美しさ」の定義は人それぞれ違うこと。それは信仰そのものでもあると思いました。
花傘は、紅白牡丹の風流傘を先頭に、山吹の花、ピンクの桃の花、若緑のもみじ、紫の燕子花(カキツバタ)、真っ赤な椿…と色とりどりに続きます。
花々を天に向けて神々や大いなるものをお祝いすること。この季節の「美しさ」をそのまま表現し、肯定するようで、フラワームーンの5月にふさわしい装飾と行列であると感じました。
葵祭に限らず、各地の5月のお祭りに参拝される際には、花々の彩りや装飾に目を向けるのも素敵かなと思います。