夏の京都は静かな奥嵯峨への旅がおすすめ。観光客でにぎわう嵐山から、百人一首で有名な小倉山の山裾に沿って北へ向かうと、竹林が美しい奥嵯峨にたどり着く。古典文学にも登場する古社や名刹を訪ねてみたい。
奥嵯峨への起点にあるのが、野宮(ののみや)神社だ。その昔、この地は天皇の代理で伊勢神宮の祭祀に携わる斎王が、伊勢に向かう前に身を清めた聖地だった。斎王制度が廃絶になった後醍醐天皇の時代に神社となり、その後、門跡寺院であった大覚寺に保護された。黒木鳥居と小柴垣は平安時代の姿を今に伝える。『源氏物語』の「賢木(さかき)の巻」で登場することから古典文学ファンにも有名だが、現在は縁結び、恋愛成就の御利益を求め、若い男女が多く訪れる。
奥嵯峨へと進むと『平家物語』に登場する祇王寺に出合う。平清盛の寵愛を失った白拍子・祇王が母、妹とともに入寺した悲恋の尼寺として伝えられ、本堂にあたる草庵仏間には鎌倉時代末期作の祇王らの木像を祀る。ちなみに、白拍子とは平安末期から鎌倉時代にかけて流行した歌舞や演者のことを指す。境内墓地には3人を弔う宝篋印塔(ほうきょういんとう)や清盛の五輪塔が静かにたたずむ。苔庭の美しさもさることながら、夏は若竹と青モミジが一面を緑に染め、境内を散策するだけで心が落ち着く。
祇王寺からさらに山裾を進むと、兼好法師の『徒然草』の一節にも登場する「あだし野念仏寺」こと、華西山東漸院(かさいざんとうぜんいん)念仏寺が現れる。化野(あだしの)は平安時代から鳥辺野、蓮台野と並ぶ風葬の地であった。寺伝では弘法大師空海がこの地に葬られた無縁仏を祀るために、一宇を建立したのが始まりという。境内中央にあるのは、風葬から土葬になった時代に、人々が化野に散乱し、埋没していた石仏や石塔を祀った「西院の河原」だ。その数、なんとおよそ8000体。毎年8月の最終土・日曜には灯明を捧げる千灯供養が行われ、境内は幻想的な雰囲気に包まれる。
静寂に包まれた奥嵯峨で、涼しげな風を感じてみたい。
製作著作:KBS京都 / BS11
【放送時間】
京都浪漫 悠久の物語
「夏の奥嵯峨~無常の世界~」
2025年7月14日(月) よる8時~8時53分
BS11(イレブン)にて放送