ここからしか見えない京都
  

読んで楽しむ 古きよき織屋の街並みが残る「西陣」エリア

これまでご紹介してきたスポットをエリア別にピックアップし、「読んで」京都の旅を楽しんでいただく「空想京都さんぽ」シリーズ。旅行やお出かけが制限される今、昨年に続き再び、空想の京都さんぽにお連れします。第10回は「西陣」エリア。西陣織の街として知られるこの地域には、織屋や刺繡(ししゅう)の工房を改築した店が数多く残ります。

■暮らすように、小さな旅にでかけるように、自然体の京都を楽しむ。朝日新聞デジタルマガジン&Travelの連載「京都ゆるり休日さんぽ」はそんな気持ちで、毎週金曜日に京都の素敵なスポットをご案内しています。 (文:大橋知沙/写真:津久井珠美)

※営業状況が変更されている場合があります。ご注意ください。

街に根ざした「farm to table」を味わうレストラン

ランチの前菜は野菜をたっぷり使ったデリを10種類ほど盛り合わせて
日替わりのパスタは2種類から選べる。前菜、自家製フォカッチャ、ドリンクが付いて1650円(税込み)

ニューヨークスタイルの朝食と、季節の素材をふんだんに使ったイタリアンを提供する「OASI(オアジ)」は、その名の通り街の人々のオアシスとなるような心地よさが魅力。店主の吉田香織さんが自ら市場で仕入れたオーガニックの野菜を使い、10種類前後のデリを盛り合わせる前菜や、旬の香り立つパスタに仕上げるランチには、「OASI」らしさがぎゅっと詰まっています。

店主の吉田香織さん。料理をライブ配信したり、和食のイベントを開催したりと多彩な発信も魅力

「野菜を変えると料理が変わる。料理が変わると、自分自身が変わるんです」と語る吉田さん。店を開業する前に渡ったアメリカで、西海岸やニューヨークのレストランで実践される食のかたち「farm to table(=農場から食卓へ)」を肌で学んできた経験から、ここ西陣でもそのスタイルを伝えたいと腕をふるいます。季節の恵みと地産地消の豊かさを、おいしくスタイリッシュに味わえる。そんな心をも満たす食事が、リピーターに愛される理由です。

OASI
https://www.instagram.com/oasi.kyoto/
■紹介記事はこちら
https://www.asahi.com/and_travel/20200703/262264/

暮らしに寄り添い、育てる漆器に出会う

作家に愛猫・銀吉を絵付けしてもらった「ギャラリーやなせ」柳瀬佳代さん私物のお椀(わん)。加藤那美子さん作。愛犬愛猫のイラストは個展などの限定、子どもの似顔絵や名入れは随時受注可能

昼食を終えたら、西陣の街を歩きながら買い物を楽しみましょう。「ギャラリーやなせ」は漆の椀やプレート、カトラリーなどを扱う、漆器専門のギャラリー。朱色や黒の印象の強い漆器ですが、ここではグレーや銀彩、絵柄や模様のあるものなど多彩な作風が並び、日常に取り入れやすいラインナップに驚きます。

空間デザインは建築家・中村好文さん。西陣織の工房部分を改築した

家族のかたちやライフスタイル、食の好みによっても、必要とされるうつわはさまざま。「ものが居場所を得るお手伝いをしたい」と語る店主の柳瀬佳代さんは、常設展では手に取りやすい価格帯を中心に、企画展ではつくり手の個性が発揮されるうつわを提案し、使い手の立場でともに選ぶことを大切にしています。割れにくく、使うほどにツヤを増し、修理が可能な漆器は、使う人の生活に長く寄り添うもの。おうち時間が楽しくなるような相棒がきっと見つかります。

ギャラリーやなせ
https://www.facebook.com/murasakino6128/
■紹介記事はこちら
https://www.asahi.com/and_travel/20191220/189032/

繊細な陰影に見とれる。贈りたい、飾りたい紙

二つ折りのメッセージカード。和菓子の砂糖がけのような絵の具ののりに風合いがある

古くから障子や壁紙に用いられる「型押し」という印刷技法を使い、色や模様がふわりと紙にのったような作品を作る「かみ添」。小さな空間には、作り手の嘉戸浩(かど・こう)さんが内装やデザインなどの仕事の傍ら製作する、生活に取り入れやすいメッセージカードやぽち袋などが並びます。

元は床屋だったという建物を店舗に。光の入り方で文様の見え方も変わる

紙や印刷が好きで、以前はグラフィックデザインに携わっていたという嘉戸さんにとって、「型押し」は伝統工芸というより印刷技術の一つ。フラットな発想で作られる意匠は、現代的だったり異国情緒を感じさせたりと自由です。手仕事と印刷物の中間のような距離感で、古めかしいけれどどこか新鮮な、紙の表情をじっくり見つめてみてください。

かみ添
http://kamisoe.com/
■紹介記事はこちら
https://www.asahi.com/and_travel/20181221/23908/

揚げたてをシンプルに。素材の良さが引き立つ串揚げ

衣を付けて揚げる前の串揚げの素材。皮付きの野菜や無添加の海鮮など、素材のうまみを存分に味わえる

西陣さんぽの締めくくりは、季節の味覚をからりと揚げる「串揚げ 万年青(おもと)」で夕食としましょう。串の食材から薬味の一つ一つまで、オーガニックや無添加であることを大切に選ばれた素材はどれも滋味深く、シンプルな食べ方で風味が引き立つものばかり。おまかせで提供されるコースは、「次は何だろう?」とワクワクしながら、定番の食材のおいしさに驚いたり旬の味にうなったりと、楽しみな時間です。

例えば、サツマイモには角切りバターをちょこんとのせて。食材に合わせたタレや薬味の提案もうれしい

生産者や地元でものづくりをする作り手との縁に魅了され、毎月25日には、野菜やお弁当、お菓子などを販売するマルシェ「オモテ市」を開催。小規模の市ながらじわじわとファンを増やし、京都のマーケットの新定番となりつつあります。ディナーだけでなく、25日に西陣かいわいを訪れる際にはぜひチェックしてみてください。

串揚げ 万年青(おもと)
https://www.instagram.com/kushiage.omoto/
■紹介記事はこちら
https://www.asahi.com/and_travel/20181214/29353/


最盛期に比べると数は少なくなりましたが、街では時折、稼働中の織屋から機織りの音が聞こえることもあります。駅からやや遠く、バスか徒歩が主な移動手段となりますが、街歩きにはかえって最適。国の登録有形文化財である「船岡温泉」、春・秋に特別公開される塔頭(たっちゅう)の多い「大徳寺」などと合わせて、のんびりさんぽを楽しんでみてください。

この記事を書いた人
大橋知沙 編集者・ライター
 
東京でインテリア・ライフスタイル系の編集者を経て、2010年京都に移住。 京都のガイドブックやWEB、ライフスタイル誌などを中心に取材・執筆を手がける。 本WEBの連載「京都ゆるり休日さんぽ」をまとめた著書に『京都のいいとこ。』(朝日新聞出版)。編集・執筆に参加した本に『京都手みやげと贈り物カタログ』(朝日新聞出版)、『活版印刷の本』(グラフィック社)、『LETTERS』(手紙社)など。自身も築約80年の古い家で、職人や作家のつくるモノとの暮らしを実践中。  
この記事の写真を撮影した人
津久井珠美 写真家
 
大学卒業後、1年間映写技師として働き、写真を本格的に始める。 2000~2002年、写真家・平間至氏に師事。京都に戻り、雑誌、書籍、広告など、多岐にわたり撮影に携わる。  

朝日新聞デジタルマガジン&Travelより転載
(掲載日:2021年2月5日)

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