ここからしか見えない京都
  

十六回目「創作とカフェ①」

ひと雨ごとに暑さがやわらぎ、秋めいてきましたね。
秋と言えば、食欲、スポーツ、そして文学です。
この秋は、創作に関する講座や講演のお話をいただいたり、文学賞の選考委員としての仕事が本格的に始動したりと、たくさん刺激をいただき、今年は個人的に『創作の秋』です。

そんな私にとって、創作と切っても切り離せないのが『カフェ』。
というわけで、今回のテーマは『創作とカフェ』。
著作に登場したことがあるカフェの紹介、そして最後に、私がずっと気になっていたカフェに行ってきたレポートをお届けしたいと思います。
最初に紹介したいカフェはこちら。

[1]吉田山荘・真古館

吉田山の中腹に位置している『吉田山荘』。
ここは元々、昭和天皇の義理の弟にあたられる東伏見宮家の別邸として、昭和初期に建てられたものでした。現在は、料理旅館となっています。
そんな吉田山荘の敷地内にあるのが、『真古館』というカフェです。

京都寺町三条のホームズ(以下・京都ホームズと略)の4巻に登場しました。
望月作品に登場するカフェといえば、ここ!
というくらい、読者様には認知していただいています。

©︎秋月壱葉(コミック版京都ホームズ8巻より)

ここは、私にとっても、とても思い出深いカフェです。
当時、私はデビューして、約3年目。
初めて、本格的なスランプに見舞われていたのです。
ちなみに今となっては、スランプは日常茶飯事なのですが、小説を書くことが大好きで、書くのが気分転換であり、趣味だったあの頃の私にとって『書けなくなる』なんて、考えられないことだったんです。
スランプの原因は、明確でした。
私は、京都ホームズを全4巻で完結させようという構想の元、シリーズを書いていたのです。
なぜ、全4巻かというと、春夏秋冬と京都の四季を書き、春を迎えるところで『THE END』と考えていました。
ですが、とてもありがたいことに、さらに続きを書いてほしい、と担当編集者に言ってもらえたわけです。
嬉しかったです。光栄だ、と感激に胸を熱くさせました。
が、全4巻で考えてきたので、次の展開がまったく浮かばない。
続きを書きたいのにアイデアが出てこないという、いわゆるスランプに陥ったわけです。
苦しみました。せっかく、『続きを』と言ってもらえているのに、どうしてもアイデアが浮かばない……。
プレッシャーにおし潰されそうになり、気分転換しようと美容室へ行きました。
そこで美容師さんに、
「望月さん、カフェ好きでしたよね?吉田山荘の『真古館』へは行ったことがありますか?絶対、望月さん、気に入ると思うんですよ」
と教えてもらったんです。

翌日、私はせっせと自転車を漕いで、吉田山荘『真古館』へ向かいました。
当時は左京区に住んでいたので、自転車で行ける距離だったんです。
(今出川通りの傾斜がまあまあしんどかったですが笑)
カフェに向かいながらも、心は絶望的になっていました。
『やっぱり今日も新しい展開は浮かばなかった。もう、続きを書くのは無理だ。担当さんに謝って、4巻は当初の予定通り、完結の展開にさせてもらおう』
なんて思っていたわけです。
そうして、辿り着いた『真古館』。
店構えは山小屋風の木造建築で、まるで宮沢賢治の童話『注文の多い料理店』の『山猫軒』のようだ、とワクワクしました。
中はどんな感じだろう、と店内に足を踏み入れると想像した通り、昭和レトロモダンで素敵な雰囲気でした。
コーヒーとチョコレートケーキをいただきながら、
「ここが作品の舞台になったら素敵だろうな。
(人の死なない)事件が起こって、清貴が鮮やかに解決に導く。窓際に立って、事件の真相を語る姿が目に浮かぶよう」
とインスピレーションが浮かんできたのです。
私はその勢いのまま帰宅し、パソコンの前に向かいました。
そうして、無事、新しい展開を書き上げることができました。
おかげさまで、京都ホームズは4巻で終わることなく、今も続けさせていただき、現在18巻まで刊行されています。

初めてのスランプから脱して、ホッとしていたのも束の間、私はこの後、幾度となく同じようなスランプに苦しむようになります。
そのたびにとことん悩んで、最後には家を飛び出して、新たなカフェへ向かうのです。
気分転換することで、頭の中が整理されるのか、新しいアイデアが出てくることが多いのです。作品のプロット(ラストまでのザックリとしたあらすじ)を作る時もカフェの方が断然はかどります。
私の場合、コーヒーを飲み終えるまでに、ちゃんと作らなきゃ、という意識がそうさせるのかもしれません。
こうして私の創作はカフェに救われているわけです。
著作には、他にも色々なカフェが登場しているのですが、その紹介は次回にお届けしたいと思います。
よろしくお願いいたします。

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拝み屋さんシリーズ完全完結しました。
全16巻です。
読書の秋のお供に、ぜひよろしくお願いいたします。

この記事を書いた人
望月麻衣
 
京都在住の道産子。もの書き。 『京都寺町三条のホームズ』(双葉社)『わが家は祇園(まち)の拝み屋さん』(KADOKAWA)『京洛の森のアリス』(文藝春秋)『太秦荘ダイアリー』(双葉社)など書籍発売中。  
 

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