ここからしか見えない京都
  
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二十回目「子どもの頃の憧れを叶えてくれる場所」

「小説家になりたい」というのは、私の子どもの頃からの夢でした。
しかし、その前にも夢はあり、「漫画家になりたい」という思いが先にあったんです。
漫画家を諦めたのは、頭の中でどんどん物語が浮かぶのに、画力は一向に追いつかない。それがもどかしく、絵を捨てて、文章だけで物語を綴ろうと決めました。

これは、様々なインタビューで答えているので、
「望月さんの最初の夢は、漫画家だったんですよね?」
と、知ってくださっている方も時々いらっしゃいます。
「そうなんですよ〜」
などと答えている私ですが、実は、漫画家よりもさらに前に、もっと幼く、もっと大それた夢を抱いていたことがあるんです。

それは、『お城に住みたい』という夢でした。
自分がお姫様になりたいというわけではないんです。
『お城に住みたい』
『将来は絶対にお城に住む』
などと思い、自分が住むであろうお城のイメージを頭の中で膨らませていました。
やはり理想のお城は、シンデレラ城のモデルとなったと言われているドイツのノイシュヴァンシュタイン城かな。

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しかし、ちょっと堅苦しいかもしれない。
もっと華やかなところ……ヴェルサイユ宮殿なんてどうだろう?

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などと大それた夢を描きながら、成長とともに「維持が大変そう」などと現実を見るようになりました。
(『お城に住むなんて無理に決まっている』とは思っていなかったところ、叶えられる気持ちがあった図々しさが自分の強みなのかもしれません笑)

お城に住む夢は諦めたものの、未だにお城の写真には胸がときめきますし、いつかヨーロッパのお城を巡るツアー等に参加したい。あわよくば、宮殿でティータイム体験ができたらと思っています。

しかし、わざわざヨーロッパまで行かなくても、宮殿でのティータイムを疑似体験できてしまう場所が、京都にはあるのです。

それは、円山公園内にある長楽館。(敬称略)

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長楽館は明治四十二年(一九〇九)“煙草王”と呼ばれた実業家村井吉兵衛により国内外の賓客をもてなすための迎賓館として建築されたそうです。(公式サイトより)

アメリカの建築家ガーディナーの設計によるルネッサンス洋式の重厚な外観は小さなお城のよう。
そんな長楽館、現在はホテルであり、カフェ、そしてレストランです。

石造りの入口を入ると、臙脂色の絨毯、そして手すりの曲線が美しい階段が私たちを迎えてくれます。

レストランは、植物模様のレリーフ、華やかなシャンデリアが彩るクラシックなお部屋です。

窓も天井も壁も、どこを見ても、うっとりする美しさ。
ここで食事をしていると、お城に憧れ続けた心が満たされていく気がします。

そんな、長楽館は『アフタヌーンティーセット』が人気です。
私もずっと気になりつつ、なかなか予約が取れずにいたのですが、先日ようやく行くことができました。
見てください。こちらが、長楽館のアフタヌーンティーセットです。

英国式アフタヌーンティースタンドには、サンドウィッチ、キッシュ、スコーン、ケーキ、クッキー、フルーツ等が並び、優雅な午後を彩ってくれます。
アフタヌーンティー専用の部屋は、かつて応接室として使われていた「迎賓の間」。

華やかでどこか愛らしいロココ様式のこの部屋は、18世紀のフランスの宮殿を思わせます。

長楽館は、どの部屋も(トイレに至るまで)美しく、見応えがあるのですが、最上階がまた素晴らしいのです。
(宿泊者は見学できるとのこと)

最上階は……

なんと、和室なのです!
長楽館に和室があったなんて!と、驚きました。
それもそのはず、外から分からない工夫が施されているそうです。

和風のスタンドガラスも美しい。

洋風のしつらえにうっとりしていた私も、最上階の和室に来ると、背筋が伸びる心持ちになりました。

まさに長楽館は、京都東山の小さなお城。
お城に住む夢は断念しましたが、今はいつか長楽館に泊まってみたいという願望を抱いてます。

長楽館様。
ご挨拶させていただいたのは、昨年末のこと。その際、館内をご案内くださいまして、今後エッセイへの掲載もご快諾くださいまして、本当にありがとうございました。(ようやく掲載できました!)
心から感謝申し上げます。

この記事を書いた人
望月麻衣
 
京都在住の道産子。もの書き。 『京都寺町三条のホームズ』(双葉社)『わが家は祇園(まち)の拝み屋さん』(KADOKAWA)『京洛の森のアリス』(文藝春秋)『太秦荘ダイアリー』(双葉社)など書籍発売中。  
 

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