ここからしか見えない京都
  

第18回「よみがえりの赤しそ畑 / 大原盆地」

夏野菜が美味しい季節です。
最近、私は京都でも有数の野菜の産地、大原までお野菜を買い出しに行くことにはまっています。
宝石のごとく輝く夏のお野菜。かたちは不揃いだったり、葉には虫食いがあったりするけれど、だからこそ愛しく、甘みがあって味が濃く、体に入れるとそれはもう、大地と太陽のパワーをダイレクトに取り込んだかのように、途端に元気がみなぎってくるのです。

睡蓮の花に抱かれるアマガエル。

大原には様々な花が咲きます。かつて多くの日本画家が画題にした「大原女(おおはらめ)」を想う田園の風景は、ぶらぶらとお散歩するだけでも心癒やされますし、大原に点在する寺社の苔のお庭や、もみじも素晴らしい。四季折々に様々な風景を見ることができますが、私のお気に入りは、七月に最盛期を迎える赤しそ畑の風景です。
大きな青空の下、濃い紫が一面に広がる景色の美しさといったら。この赤しその深い紫色は、日本画材の中で特に高貴な色のひとつで、貴重な紫金石を砕いて作る、もしくは朱と金粉を材料に作られる「紫金末」という絵具の色彩に似ています。本物の紫金末は大変高価なものですが、心の中であれば、たっぷりと絵具を使って何度でもこの風景をスケッチすることができます。

赤しそには、ひとつ思い出があります。真夏のある日、蓮池での写生中に熱中症になりかけたのですが、お庭の主の方から頂いたしそジュースを飲んで回復し、救われたのです。しそは「紫蘇」と書くだけに、蘇りの植物だなと思ったのですが、実際に中国の後漢時代に活躍した華陀という医師が、薬として用いた伝承に由来し、“蘇る紫の葉”の意味で、漢方の生薬名として「蘇葉(そよう)」と呼ばれるそうです。

日本でも、縄文時代のしその種子が貝塚で発見されていて、古くからある植物。
そして、大原で栽培されている赤しそが最も原品種に近いそうです。

少し縮れた葉が特徴のこちらが大原原産の赤しそと、志ば久の久保統さんに教えていただきました。

寒暖差が大きい大原盆地の地形、大地を保湿する朝霧により、色鮮やかで香り高く育まれる赤しそ。
平安時代には既にこの地で作られていたという名産品のしば漬けも有名で、大原の赤しそとお野菜とのコラボレーションなのですから美味しくないわけがありません。

さて、先程からの赤しそ畑の風景写真。
しば漬けの名店・志ば久四代目の久保統さんがトラクターで畑を耕されていたところに偶然出会い、快くご案内をいただいた赤しそ畑です。
このお便りが皆さまに届くころ、大原では畑が紫金色に染まる風景に変わり、この夏最初のしそで漬けた「新漬け」と呼ばれるしば漬けの樽出しがはじまり、お店にも並んでいるはずです。
暑い日が続きますが、いのち蘇る旬のお野菜と暑気払いのしば漬けで、元気に夏を乗り越えたいですね!

この記事を書いた人
定家亜由子
 
京都在住の日本画家。伝統画材にて花を描く。
高野山大本山寶壽院 襖絵奉納
白沙村荘 橋本関雪記念館 定家亜由子展等、個展多数。
画文集『美しいものを、美しく 定家亜由子の日本画の世界』(淡交社) 刊行。  
 

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