ここからしか見えない京都
  
高貴な紫色でライトアップされた御影堂。知恩院の中心に建つ

知恩院の大伽藍を舞台にした、美しいライトアップ

徳川家康も帰依した浄土宗の総本山で、正式名称は華頂山知恩教院大谷寺。その宗祖である法然上人の入寂(にゅうじゃく)の地に建つのが、この知恩院です。800年以上にも及ぶ知恩院の歴史は、念仏の教えを説いた法然上人の半生とともにありました。

念仏に光を見出した法然上人

1133(長承2)年、法然上人(幼名・勢至丸)は美作国(現在の岡山県)の押領使の長男として誕生しました。しかし9歳の時、夜襲によって父を亡くします。父の遺言である「俗を逃れ、解脱(げだつ)を求めよ」を胸に、15歳でひとり比叡山へ。比叡山を下ったのはそれから28年後、43歳の時でした。世は乱世。にもかかわらず、当時の仏教は貴族のための宗教と化していました。法然上人が光を見出したのは、厳しい修行をせずとも、誰もが「南無阿弥陀仏」と唱えるだけで救われるという専修念仏(せんじゅねんぶつ)の道。念仏の布教のため、1175(承安5)年に現在の御影堂(みえいどう)のあたりに結んだ草庵(そうあん)。これが知恩院の起源といわれます。

その後も旧仏教からの弾圧、四国への流罪、様々な苦難が法然上人を襲いました。京都に戻ることはできましたが、病に伏し、1212(建2)年、80歳で入滅。上人の生涯を描いた絵巻「法然上人行伏絵図」には、上人のもとに阿弥陀三尊が来迎(らいごう)する様子が描かれています。

死後、門弟らによって廟(びょう)が築かれ、1234(文暦元)年には伽藍(がらん)を造営。江戸時代には徳川将軍家の菩提所(ぼだいじょ)となり、家康・秀忠・家光の3代にわたって現在の壮大な伽藍が整備されました。ちなみに知恩院という寺名は、弟子たちが上人報恩のために行った知恩講に由来するそうです。

国宝で徳川2代目将軍、秀忠の命によって建立された三門。三門の「三」は仏教の三解脱門に由来する

僧侶が案内する、今だけの限定ツアー

そんな知恩院で開催されている夜間特別拝観。今年のテーマは「心に、灯(あか)りを」。聞くと、毎年、寺の若き僧侶らが中心となって企画しているといいます。ライトアップされる建造物は日本最大級の木造二重門である国宝の三門、枯山水庭園を海のようなブルーのライトで鮮やかに染め上げた友禅苑、阿弥陀堂、御影堂など。三門から伸びる男坂に投影された紅葉の映像もフォトスポットのひとつです。

紅葉の吹き寄せのような、男坂のプロジェクションマッピング

また、期間中の金・土・日限定で、記念品として特別なご朱印を授与する御影堂プライベートツアー(先着15名・要予約)も実施。案内人は現役のお坊さん。時にユーモアを交えながら、通常は立ち入ることができない御影堂の内部を案内してくれます。ツアーは先導役を引き受けた参加者が手にした提灯(ちょうちん)の灯りを頼りに、阿弥陀堂へと向かうところから始まります。明治年間に再建された阿弥陀堂。堂内では優しい面持ちの阿弥陀如来坐像(ざぞう)が、静かに私たちを出迎えてくれます。案内役のお坊さんによると、阿弥陀堂は僧侶らにとって、朝一番にお参りにくる“はじまりのお堂”でもあるそうです。

高さ2.7メートルの大きな体にも目を奪われる、阿弥陀堂の阿弥陀如来坐像

念仏の根本道場、御影堂を間近で拝観

続いて、歩くと鶯(うぐいす)の鳴き声に似た音で侵入者の存在を知らせる鶯張りの廊下を渡り、御影堂へと歩みを進めます。7万3千坪もの広大な寺域に点在する伽藍のなかでも、最も重要な場所が法然上人の御影を祀(まつ)る、この御影堂です。2011(平成23)年に「元祖法然上人800年大遠忌」を迎えた知恩院。その年から、国宝に指定されている御影堂の平成大修理がスタートしました。2020(令和2)年4月、およそ9年間におよぶ大修理が完了しましたが、コロナ禍を受け、記念すべき落慶法要は規模を大幅に縮小して執り行われました。それから1年半後の今秋、晴れて大々的なお披露目となったのです。

家康、伝通院、秀忠の木像を納めた黄金の厨子。厨子内部は非公開

御影堂では内陣を鑑賞。西側に並ぶ三つの厨子(ずし)の内部には、知恩院を整備拡張した徳川家康、家康の母である伝通院、三門と経蔵を建立した徳川秀忠の坐像が。対して、東側には法然上人の護持仏だった阿弥陀三尊立像などが安置されています。ここで少し余談ですが、御影堂は瓦や柱だけでなく、足元の畳の芯までも、全てではないものの創建当時のものがそのまま再利用されているそう。400年前、徳川家光によって建てられた御影堂の歴史を足の裏に感じながら再び阿弥陀堂に戻り、ツアーは終わりを迎えます。

ほっとする、お坊さんの法話も

もしも時間が許せば、期間中は御影堂で毎晩行われている法話にも参加してみることをおすすめします。色んな人のお陰様のなかで、自分の命がある。コロナ禍によって制限された日々を送るなかで、つい忘れがちな感謝の気持ちに気づかせてくれる法話。誰でも無料で参加できて、所要時間は15分ほど。正座でいる必要もありません。法話の最後には、お堂に集まったみんなで木魚をポクポクとたたきながら、「南無阿弥陀仏」を唱える念仏体験の時間も設けられています。

法話は18時から4回、45分おきに開催。途中参加、退席も自由
法話の参加者には知恩院七不思議のひとつ、「三方正面真向の猫」にちなんだ缶バッチを進呈

自らのもとを訪れる、すべての人々の救済に生涯を捧げた法然上人。上人の入滅後も、知恩院は念仏の根本道場として多くの人々を迎え入れてきました。大伽藍を舞台にした美しいライトアップは、心を少し軽くしてくれる浄土宗の教えを身近に感じるためのひとつのきっかけ。寺を後にする頃にはきっと、胸の奥がじんわりと暖かくなっている自分の姿に気づくはずです。

※知恩院の夜間特別拝観の詳細はこちら

【放送情報】
京都紅葉生中継2021~古都を照らす希望の「光」~
2021年11月23日(火・祝)よる7時3分~8時53分
BS11(イレブン)・KBS京都にて放送

【出演者】
ゲスト:高島礼子(俳優)、押尾コータロー(ギタリスト)
進行:海平和(KBS京都アナウンサー)
レポーター:相埜裕樹 (KBS京都アナウンサー) 、佐藤由菜(KBS京都アナウンサー)
解説:井上章一(国際日本文化研究センター所長)
※2021年の紅葉中継は放送終了しました

この記事を書いた人
吉田志帆 ライター
 
左京区に住まう、京都歴20余年の“よそさん”。在学中より、関西のリージョナル誌を中心に活動。街場の小話から寺社仏閣まで、京都のあれこれを綴る。  
この記事の写真を撮影した人
津久井珠美 写真家
 
大学卒業後、1年間映写技師として働き、写真を本格的に始める。 2000~2002年、写真家・平間至氏に師事。京都に戻り、雑誌、書籍、広告など、多岐にわたり撮影に携わる。  

朝日新聞デジタルマガジン&Travelに掲載
(掲載日:2021年11月26日)