ここからしか見えない京都
  

読んで楽しむ 花街のセンスをゆったり再発見 「祇園」エリア

これまでご紹介してきたスポットをエリア別にピックアップし、「読んで」京都の旅を楽しんでいただく「空想京都さんぽ」シリーズ。旅行やお出かけが制限される今、昨年に続き再び、空想の京都さんぽにお連れします。第13回は、五花街の一つ「祇園」エリア。海外からの観光客が少ない今だからこそ、ゆったりと花街の雰囲気を味わってはいかがでしょう。

■暮らすように、小さな旅にでかけるように、自然体の京都を楽しむ。朝日新聞デジタルマガジン&Travelの連載「京都ゆるり休日さんぽ」はそんな気持ちで、毎週金曜日に京都の素敵なスポットをご案内しています。 (文:大橋知沙/写真:津久井珠美)

※新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、営業状況が変更されている場合があります。ご注意ください。

平成元年の空気が流れる、古くて新しい喫茶店

東大路通りから一歩横道に入った路地沿い。30年ほど前にここで営まれていた仕出屋「菊しん」から店名をいただいた

ラジカセ、黒電話、三枚羽の扇風機……。懐かしいのに、新鮮にも感じるレトロな品々に囲まれた「菊しんコーヒー」で、まずは朝食にしましょう。「僕の感覚では、この店の雰囲気は平成元年くらいなんです」と語るのは、店主の東翔太さん。子どものころ実家や近所の商店にあったようなものを集めて、どこかやぼったくセンチメンタルな空気を再現しました。

砂糖漬けレモンのキュッとした酸味、バターの香りがクセになる「レモントースト」。「コーヒー」はサイホンですっきりとした味わい。ともに500円・税込み

朝8時から営業しているので、通勤途中に立ち寄る地元客からモーニング目当ての観光客まで、客層はさまざま。アナログな風景が年配客には懐かしく、若い人には新鮮に映ります。それでいて、サイホンでいれるコーヒーを待つ間、栓抜きでポンジュースの王冠を開ける瞬間、居心地のよい安心感を覚えるのは共通のこと。甘酸っぱいレモントーストを一口かじれば、昭和と平成のはざまにワープすることでしょう。

菊しんコーヒー
京都市東山区下弁天町61-11 Tel 075-525-5322
■紹介記事はこちら
https://www.asahi.com/and_travel/20181109/17631/

レトロ建築に見とれながら至福のティータイムを

8室ある部屋はそれぞれコンセプトが異なる。家具や調度品を含む建物全体が有形文化財に指定されている

桜の名所・円山公園に隣接した「デザートカフェ長楽館」は、「煙草(たばこ)王」と称された明治の実業家・村井吉兵衛の別邸。1909(明治42)年に竣工(しゅんこう)し迎賓館として使われていたこの建物は、日本の近代洋建築の様式美やディテールを伝える貴重な手がかりです。

季節替わりのドレッサージュ・デザート(ドリンクとセットで2200円~・税込み、サービス料別)。写真は一例

当時の内装や調度品を可能な限り残し、建築鑑賞を兼ねて一般の人でも立ち寄れるよう、カフェとしてオープン。「多くの方に建築美を楽しんでいただくことで、迎賓館として建てられたこの館の役目を果たせるのではと考えています」と広報の麦谷祐佳さんは話します。幸運にも円山公園に面した席に案内していただけたなら、「祇園しだれ」の桜を眺めながらクラシカルなデザートを味わうことができるかもしれません。

デザートカフェ長楽館
https://www.chourakukan.co.jp/
■紹介記事はこちら
https://www.asahi.com/and_travel/20200226/219155/

いのちの通う、植物の色を身近に取り入れて

光に透けるシルクのストール、カードケースやポーチなど身の回りの小物から、のれんや座布団などのインテリア小物まで並ぶ

石畳の街路に桜並木が並ぶ祇園白川沿いを散策したら、1本北の新門前通で買い物を楽しみましょう。「染司(そめのつかさ)よしおか」は、天然の染料のみで和小物やインテリア用品などを染める、江戸末期創業の染屋です。一時は化学染料に傾いていた染めの仕事を、植物のニュアンスある色相や透明感に魅了された先々代が復興。5代目の吉岡幸雄(さちお)氏が第一人者となり、よしおか流の植物染めを確立させました。

植物の優しい色合いが肌に馴染(なじ)む「マスク」(2200円)、数寄屋袋(8800円)、カードケース(各880円)など。いずれも税込み

「『自然の植物から抽出された色には、暖かさや命の源を感じさせる深みがある』と、生前父は言っていました」と語るのは、6代目・吉岡更紗さん。当主として植物染めに携わるうち、自然の営みや季節の巡りを肌で感じ、父の言葉の意味を実感するといいます。自然の気配を宿した「色」が心にもたらす作用を、身近なアイテムから取り入れてみてください。

染司(そめのつかさ)よしおか
https://www.textiles-yoshioka.com/
■紹介記事はこちら
https://www.asahi.com/and_travel/20201204/302011/

普段使いの骨董のうつわで、料理を楽しく

珉平焼(みんぺいやき)、染付(そめつけ)、プレスガラスなどの豆皿。手頃な価格と、小菓子皿や箸置きとして初心者でも使いやすい

おとなりの「観山堂」も併せて立ち寄りたい一軒。千円台からそろう豆皿、独特のゆらぎや型押しのデザインをめでるガラス、コレクターの多い染付の蕎麦(そば)ちょこなど、日本の古いうつわを扱う骨董(こっとう)店です。

江戸〜明治期の日本のうつわが中心。手描きの染付から、プレスガラスや印判といった当時の量産技術を用いたものまで幅広くそろう

店主の八木美由紀さんは、自身のインスタグラムで普段の料理を骨董のうつわに盛り付け、使い方を提案。和食だけでなくパスタや洋菓子、コンビニの総菜など、等身大の料理で骨董のうつわを身近に感じさせてくれます。見慣れた食事がレトロモダンに、時に上品に、あるいは風情たっぷりに。飾ったり集めたりするだけではなく、「使う」楽しみに心躍る骨董にきっと出会えるはずです。

観山堂
https://www.instagram.com/miyuki555yagi/?hl=ja
■紹介記事はこちら
https://www.asahi.com/and_travel/20180727/14683/

この記事を書いた人
大橋知沙 編集者・ライター
 
東京でインテリア・ライフスタイル系の編集者を経て、2010年京都に移住。 京都のガイドブックやWEB、ライフスタイル誌などを中心に取材・執筆を手がける。 本WEBの連載「京都ゆるり休日さんぽ」をまとめた著書に『京都のいいとこ。』(朝日新聞出版)。編集・執筆に参加した本に『京都手みやげと贈り物カタログ』(朝日新聞出版)、『活版印刷の本』(グラフィック社)、『LETTERS』(手紙社)など。自身も築約80年の古い家で、職人や作家のつくるモノとの暮らしを実践中。  
この記事の写真を撮影した人
津久井珠美 写真家
 
大学卒業後、1年間映写技師として働き、写真を本格的に始める。 2000~2002年、写真家・平間至氏に師事。京都に戻り、雑誌、書籍、広告など、多岐にわたり撮影に携わる。  

朝日新聞デジタルマガジン&Travelより転載
(掲載日:2021年2月26日)

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