ここからしか見えない京都
  

二回目「京都の七夕と私」

 例年この時期、京都市では、『京の七夕』という企画が開催されます。
『一年に一度、願いごとをする』という七夕の節句の伝統を引き継ぎつつ、今風に盛り上げるため、多くの人から願いごとを募り、オンラインでも公開するのです。
 私も去年から、『京の七夕』企画に参加させていただき、今年も短冊に願い込めさせていただきました。皆さんからの願いごとを含め、どんな願い事が揃うのか、もし良かったら検索してみてください。

京の七夕

 七夕といえば、一番に思い出すのは子どもの頃のこと。
「なぜ、七夕の日に願いごとを書くのかな?」と不思議に思っていました。なにせその日は織姫さまと彦星さまが、一年に一度再会する日。願いごとと何の関係があるのだろう? 会えるのが嬉しすぎて、たくさんの人の願いを叶えてくれるのだろうか? そうだとしたら、良い人だけど、少し浮かれすぎじゃない? などと勝手ながらに思っていました。本当に失礼な話です。
 調べてみると、元は中国の『乞巧奠(きっこうてん)』が由来とのこと。『乞巧奠』とは、はた織りや裁縫の名手である織姫にあやかり、技巧の上達を星に願う行事だそうです。  つまり七夕の願いは、技術の上達を願うのが始まりだったようです。もし、由来に沿って私が願うとしたら、「もっと表現力の上達を」でしょうか。
 とはいえ、それは七夕の日に限らず、365日願っていること。一挙手一投足の労を惜しまず、がんばって書き続けなければ、と思っています。

 ところで、私と七夕には、ちょっとした縁があるようです。
 2013年に小説投稿サイトエブリスタが主催する小説賞を受賞し、デビューこそできたものの、しばらく素人意識が抜けずにいました。執筆は趣味の延長で、運が良かったから本になった、という感じだったのです。
 当然ながら、デビューしたからといって、次から次へとお仕事が来るわけではありません。その後は、どうなるか分からないような状況だったので、当時の私は、あいも変わらず作品をWEB上に連載し、出版社から声がかかるのを待っていました。つまり、まだ本になるかどうかも分からない状態で、出版社の目に留まるのを願いながら執筆し続けていたんです。
 その時書いていた作品には、貴船の川床に行くシーンがありました。

貴船の川床

 一度も貴船の川床に行ったことがなかったので、書くとしたら現地に取材に行くか、はたまたネットで調べて、その情報を頼りに書くかの二択です。
 神社仏閣でしたら、迷いもせずに取材に行くのですが、なんといっても貴船の川床。京都初心者の私には、場所もお値段も、なかなかハードルが高い。
 その時、「これが仕事だったら、『取材』と胸張って貴船の川床に行くのにな」と私は思い、次の瞬間、私は自分を叱咤しました。
「今、自分が書いてる原稿は、本になるかどうか分からないけれど、私の『仕事』だ。胸を張って、取材に行こう!」
 私は奮起して、すぐに予約を取り、翌日に一人で貴船の川床に向かいました。
 そこは、七月の暑さが嘘のように涼しく、別世界。
 聞くと、真夏でも気温は25度程度だとか。
 朱い絨毯が敷かれた床、日よけのすだれの隙間から細く差し込む日差し。
 一品一品届く料理はとても美味しく、床の下を流れる貴船川のせせらぎがとても心地が良い。
 実際に行かないと得られない感動があり、現地に足を運び、体験・体感する大切さを私は学んだのです。

 帰りに立ち寄った貴船神社では、ちょうど七夕祭りをやっていました。境内は短冊で埋め尽くされ、多くの人で賑わっています。

貴船神社

 貴船は、玉依姫命が「黄船」に乗って、川の上流に来て祠を建てたといういわれがあるそうです。鞍馬山は宇宙のエネルギーが降り注いでいると言われてる京都でも有名なパワースポットだとか。『黄船』はもしかしたら宇宙船だったのかもしれない。天の川を渡ってここまで来たのを想像すると、壮大なロマンを感じます。
 たくさんのお願い事を見ながら、私もひとつしたためました。
『プロになれますように』
 取材のために、一人で貴船の川床まで来た私は、その日、少しだけ『プロの意識』を持てた気がしました。今も昔も実力はまだまだですが、自分の書いている作品が本になろうとならなかろうと、『仕事』という意識を持てたのです。
 貴船神社は、『諸願成就、えんむすび、運気隆昌』のご利益があるそうで、技巧上達だけではなく、多種多様な願い事に対応してくれそうです。そう思えば、貴船神社と七夕祭りの相性はピッタリかもしれません。
 ちなみに、その時書いていた原稿は、無事出版されました。
『京都寺町三条のホームズ』という作品です。
 あの時の短冊のご利益があったのか、なんと来月には17巻を出させていただけることになりました。
 ちなみに、先に書いていた1巻に貴船の川床のシーンがありますので、もし良かったら。
 このエッセイを書きながら、また川床へ食事に行きたいし、貴船にお礼詣りに伺わなければ、と思った私でした。

京都寺町三条のホームズ 1(双葉社)
京都寺町三条のホームズ 17(双葉社)

画像素材:PIXTA

この記事を書いた人
望月麻衣
 
京都在住の道産子。もの書き。 『京都寺町三条のホームズ』(双葉社)『わが家は祇園(まち)の拝み屋さん』(KADOKAWA)『京洛の森のアリス』(文藝春秋)『太秦荘ダイアリー』(双葉社)など書籍発売中。  
 

一回目「ご挨拶」はこちら

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