ここからしか見えない京都
  
画像素材:PIXTA

十五回目「貴船の川床探訪」

この夏、今年二回目のツアーイベントを開催していただきました。
タイトルは、『望月麻衣と行く夏の貴船、涼み旅』。
今回も案内してくださるのは、京の旅をプロデュースする『らくたび』の若村さんです。
京阪『出町柳』駅で待ち合わせ、叡山電鉄に乗って『貴船口』駅で下車し、駅からはマイクロバスに乗り替えて、貴船神社を参拝、その後に川床でランチという流れです。

出町柳駅 画像素材:PIXTA

参拝のスタートは、『奥の院』からです。
貴船神社は元々『奥の院』に本殿があったとのこと。
伝説では、玉依姫命(たまよりひめのみこと)が黄色い船に乗って、この地に降り立ったそうです。

奥の院 画像素材:PIXTA

「こちらの神社、『きぶね神社』と呼ばれることが多いですが、実は『きふね神社』です。水の神様を祀っておられる神社なので、濁らないようにということで、濁点をつけずに『きふね』なんです」
と、説明してくれる若村さん。
参加者の皆さんは、貴船神社の呼び方は知っていたようで、説明を聞きながら得意顔でしたが、
「ちなみに、地名としては『きぶね』と濁点がつくんですよ。神社だけが『きふね』なんです」
このことは知らなかった方も多く、そうだったんだ、と相槌をうっていました。
貴船は、地名は「きぶね」で、神社は「きふね」。
ちょっとややこしいですが、とりあえず神社の方は濁らないと覚えておけば、ばっちりでしょう。

こちらの奥の院の真下には、『龍穴』という大きな穴が開いていて、その上に社が建っていると言われています。
龍穴から神聖なエネルギーが湧き出ているそうで、この地は京都でも指折りのパワースポット。また、良い縁を結ぶ『縁結び』の社としても知られているそうです。
良縁とは、恋愛や結婚はもちろん、仕事や人間関係、すべてにおいてのこと。
一方で、『縁切り』のご利益もあり、そのことから、ここで悪縁を断ち切りたいと思い詰めるのか、かの有名な『丑の刻詣り』をする人が多かった地としても知られています。
その説明も若村さんは、丁寧にしてくださいました。
「丑三つ時、白装束を纏い、五寸釘を手に、藁人形に打ち付けるわけですよ。こうやって!」
そう言って片手を振り上げて、五寸釘を打つジェスチャー付きです。
その熱演ぶりに、「もしかして、経験者ですか?」と笑いが起こっていました。

次に参拝したのは、『結の社』。

結の社

この社には、こんな言い伝えがあるそうです。
太古の昔、神武天皇の曽祖父にあたる瓊々杵命(ににぎのみこと)が、容姿の美しい木花開耶姫(このはなさくやひめのみこと)を妻にしたいと思い、姫の父親にその旨を申し出ました。
その際、父親は、姉の磐長姫(いわながひめ)も一緒にめとってくれないか、とお願いしたそうです。磐長姫は、その名の通り長い岩のようお顔だったとか。容姿は秀でていないものの、長い寿命を授ける神様だそうです。
(それにしても、姉妹揃って同じ男の元に嫁ぐというのは、現代では考えらませんが、神話の世界ならありえる話なのでしょうね)
ですが、瓊々杵命は、木花開耶姫だけを望みました。
拒まれた磐長姫は大いに恥じ、「自分はここに留まって、人々に良縁を授けよう」と決めたそうです。
自らは縁を結べなかったというのに、人々の幸せを願おうと誓う磐長姫は、なんと寛大なことか。私ならきっとそうはなれません。ちなみに、瓊々杵命は、長い寿命を授ける磐長姫を妻にしなかったため、限りある命になってしまったとか。
それ見たことか、と言いたいところですが、だから私たち人間の寿命は短いという話でした。

さて、いよいよ、本殿です。
行ったのは七月だったので、七夕の短冊がたくさんたなびいていて、とても華やかでした。
本殿の境内には、貴船神社のシンボルともいえる白馬と黒馬の彫刻があります。

「その昔、雨が降ってほしいと神様に願う際、黒い馬を奉納し、晴れてほしいと願う際は、白い馬を奉納していたそうです。ですが、神社側も馬をたくさん奉納されても、困ってしまうわけです」
たしかにそうだろう、と私たちはうなずきました。
馬も数頭なら嬉しいかもしれないけれど、たくさん奉納されては、世話も大変なわけです。
「そのため、馬の代わりに『絵馬』ができたわけなんです」
そう続けた若村さんの説明を聞いて、私たちはびっくり。

「絵馬ってそういうことだったんですね!」
「だから、『馬』がつくんだ」

これまで当たり前すぎて、疑問にも感じていなかったことですが、願いを書く木札がなぜ『絵馬』と呼ばれるのか、その秘話が分かって、目からウロコでした。
さすが、若村さん。京都の旅のプロです。著作『京都寺町三条のホームズ』の主人公、家頭清貴が実在するなら、こんな感じに説明してくれるんじゃないか、といつも感心してしまいます。
今回のエピソードも、ぜひ作中に取り入れさせていただこう、と若村さんに確認を取りつつ、心に誓った私でした。

そうして、本殿の参拝を終え、いよいよ川床です。

旗を持って皆さんを誘導する私

お店は貴船神社の目の前にある『ひろや』さん。
その日の京都市の気温は32度でしたが、川床の気温は25度で、快適です。
テーブル席なのもありがたく、お料理も美味でした!

※ この他にデザートのマンゴープリンがありました

デザートタイムにプレゼント企画などをして、無事ツアーイベントを終えました。
参加者さんからは、
「楽しかった。貴船の川床に憧れていたので、念願が叶いました」
「貴船の川床はなかなかハードルが高く、こういう機会がないと思い切れなかったから良かった」
と喜んでいただけて、嬉しかったです。

京都好きの皆さんは、ぜひ一度、貴船の川床を体験してみてください。
鴨川の納涼床とはまた違った、京の風流を堪能できること間違いなしでしょう。

ちなみに私の今「気になるところ」は、高雄の川床です。
まだ行ったことがないので、今度ぜひチャレンジしたいと思っています。

高雄の川床 画像素材:PIXTA
この記事を書いた人
望月麻衣
 
京都在住の道産子。もの書き。 『京都寺町三条のホームズ』(双葉社)『わが家は祇園(まち)の拝み屋さん』(KADOKAWA)『京洛の森のアリス』(文藝春秋)『太秦荘ダイアリー』(双葉社)など書籍発売中。  
 

タグ一覧

#人気ワード