ここからしか見えない京都
  

第1回「京の画家として」

はじめまして、日本画家の定家亜由子と申します。
京都の美しい風景をみなさまにお便りできることになりうれしい気持ちでいっぱいです。
こちらのエッセイでは、京の名所や花などを「花便り」として、花を描く日本画家の視点で綴ることができたらと思います。

京都のアトリエでの制作。伝統画材を用いて丁寧に仕上げる。

山や野で遊び、花や自然を描くことが大好きな子供時代を過ごしました。
本格的に日本画と出会ったのは京都市立芸術大学に入学してから。尊敬する女流画家のひとり上村松園(1875‐1949)も卒業した日本で一番古い公立の芸術大学です。自分の眼と体験だけで花や自然を見ていた私が、京都画壇や京文化の先人たちの美意識を通した「花」に出会い、日本画に夢中になりました。

「鳥の巣-松宵の明け-」197㎝×197㎝ 京都御所の松の木がモデル。まだまだかけだしで必死でした。制作の傍ら大徳寺や京都御所など文化財修復のお手伝いをしていたころの思い出深い作品。

現在は制作三昧の日々ですが、近年はJRデスティネーションキャンペーン「京の冬の旅」にて本法寺の堂本印象や狩野山楽の襖絵を前にポスター出演をさせて頂きましたり、雑誌等で京都で出会える名画や画家ゆかりの場所を紹介するお仕事、京都の老舗、宮脇賣扇庵さんとの季節の扇子制作など京都ならではのお仕事もさせていただいています。

芸術の世界に憧れた子供のころ、絵描きさんの世界は美術館や図書館の中でしか会えない特別なものだと思っていましたが、京都では、お祭りや寺社の中ばかりでなく、街の路地、お呼ばれのお茶室、小さなお店のウィンドウにある短冊など日常の風景の中でさえ出会うことができ、すぐそばに生き生きと感じられることが沢山あり、それが、京都が学び場となってからの一番の驚きで、アトリエとなってからの一番の喜びです。

「三春風炉先屏風」 近年の制作 風炉先とはお茶室に置く大きさの屏風。右から、水仙・蛤・桜・芍薬を扇面に描く。

春には春の花を
夏には夏の花を
たくさんの先人がこの地で描き続けた花を私もやっぱり描いていること。

いのち吹き込まれた一枚の絵には不思議な力が宿るもの。
絵の道で向き合った一枚一枚の全ての絵画が、一人一人のお人の全てのご縁と同様、
今や未来の私へと繋がっていることを実感しています。

今回は自己紹介を兼ねた回となりましたが、次からはもう少し華やかに、一つのお便りごとに一つとか二つ、具体的なお花の名前や京の名所をご紹介できたらと思います。
よろしければ、今後ともお付き合いのほどお願いいたします。

この記事を書いた人
定家亜由子
 
京都在住の日本画家。写生を大事に日本の伝統画材にて花や生きものを描く。
画文集『美しいものを、美しく 定家亜由子の日本画の世界』(淡交社) 発売中
「定家亜由子展 花ひかる」2022年5月4日~5月9日 日本橋三越本店 開催予定   
 

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