ここからしか見えない京都
  

第15回「風のつぼみが、花ひらく / 宮脇賣扇庵」

五月になりました。
初夏の季語、「薫風」という言葉から、皆さまはどんな香りを想像しますか? 風薫る五月…と、常套句のように使っているのに、本当に風の香りを感じながら生活ができているかどうかは、とても反省するところ。

と、こんなことを書いているのは、藤に牡丹に燕子花(かきつばた)、大好きな花が次々に咲き誇る五月だというのに、お恥ずかしいことに私自身が今とても時間に余裕がなくなってしまっているから。
5月19日に初日を迎える個展の準備と他の仕事が重なり、てんてこまいになっているのです。

私の場合、個展はどんなに多くても一年に一度だけ。
今年はなんと、創業200周年を迎えられる京都の宮脇賣扇庵(みやわきばいせんあん)という扇子屋さんで開催します。

京都の扇子作りは、たった一人の凄技によるものではなく、優れた技術を持った何人もの職人が分業し、数十もある工程の全てが繊細な手仕事で行われます。

そんな扇子に日頃から関わる方々と個展の準備を進めることができたこの一年間、本当に心地よく、とても楽しかったのです。

また、準備を進める中で、所蔵されている扇子の図案や下絵の史料などを見せていただく貴重な機会もありました。
富岡鉄斎、竹内栖鳳(たけうちせいほう)、田能村直入(たのむらちょくにゅう)などによる希少な扇子の作品と共に、無名の職業絵師たちによる図案の膨大な量には驚きました。扇子の歴史は日本画の歴史でもあり、そこには多くの職人と名もなき絵師たちの存在があって、のびのびと優しく温かないのちを繋いでいました。

拝見したもののひとつは江戸時代の絵師 酒井抱一の扇子。扇子の上に青いオダマキの花が咲く。

忘れられないのは、宮脇賣扇庵さんで、扇子を「風のつぼみ」と呼ぶ詩に出会ったときの感動です。
扇子を花の姿に重ね、風のつぼみと呼ぶ。なんて美しいのでしょうか。

私はどんなに忙しくても、花に向き合い、描くときだけは本来の自分に戻ることができます。
からだの中に確かにとらえた無垢でしなやかな風の香り、花や光のいのちの香り、もっと絵の中にも閉じ込めることができたらいいのにと思います。

著者 日本画家 定家亜由子の扇面作品「解夏-酔芙蓉-」

私はきちんと風を、香りを、描けているでしょうか。

最後は少し宣伝になってしまいました。
お時間がありましたら、ぜひ、風の花咲く展覧会に遊びにいらしてくださいね。 風のつぼみが花ひらき、美しい風が集いますように。

【展覧会 詳細】
https://www.atpress.ne.jp/news/354437
宮脇賣扇庵200周年企画
定家亜由子展 -風集う-
2023/5/19(金)→5/30(火)
10時-18時 会期中無休
宮脇賣扇庵 京都本店2階

所在地:京都市中京区六角通富小路東入ル大黒町80番地3
HP: http://www.baisenan.co.jp

この記事を書いた人
定家亜由子
 
京都在住の日本画家。伝統画材にて花を描く。
高野山惠光院襖絵奉納記念展等、個展多数。
画文集『美しいものを、美しく 定家亜由子の日本画の世界』(淡交社) 刊行。
2023年5月19日~30日 宮脇賣扇庵200周年記念企画 (京都)にて個展開催。  
 

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