ここからしか見えない京都
  

第17回「紫式部と花の星座 / 蘆山寺」

七夕のころの晴れの日はとても貴重です。
この日、空のご機嫌を確認して向かったのは、桔梗の花咲くお庭が有名な廬山寺(ろざんじ)です。

桔梗は何度も写生をして、作品にも描くほど、好きな花のひとつ。
桔梗の紫色は高貴で落ち着いていて、知的な雰囲気。じめじめとしたこの季節に爽やかな気分を与えてくれる色でもあります。そして、桔梗の魅力はなんといっても、花の形。英名でバルーンフラワーと言われる桔梗の、紙風船のような丸いつぼみは、そのままでもチャーミングなのに、つぼみが開けばお星さまの形に咲くのもたまらなく可愛い。並んで咲き乱れる様子は子供たちがお遊戯で演じる星々や天の川のようでもあり、星まつりの時期に咲くこともロマンチックに感じます。

廬山寺の桔梗の庭は、源氏庭と呼ばれています。
白砂、苔の緑、花の青紫、夏らしい三色で描かれるシンプルな風景画の美しいこと。
枯山水の庭に浮かび上がるいくつもの星座のかたち。そこに、ひらひらと小さな白蝶、この日はアオスジアゲハまでやってきて、おいでおいでと誘います。私たちは蝶のようにお庭に降りることはできないのですが、縁台から俯瞰して、自分を定点としながら景色を広く見続けることがかえって心を自由にして、まるで星々が作るどこか知らない宇宙に吸い込まれるような気持ちになります。

この廬山寺が現在地に移転したのは、天正年間(1573~1593)とのこと。
ここが紫式部の邸宅跡であることも良く知られています。
紫式部が藤原宣孝(ふじわらののぶたか)との結婚生活を送り、一人娘の賢子を育てるなど、紫式部はここにあった邸宅で生涯の大部分を過ごしたといわれています。宮中での人間関係の難しさに苦悩し、はやり病で夫を失った後は、その寂しさをも創作のエネルギーに昇華させ、源氏物語という傑作長編の執筆に情熱を注いだのでしょうか。

廬山寺の手水舎のすぐ近くに置かれていた、水鉢の紫陽花。よく見ると桔梗の花も。

さて、ところ変わって、紫野。
紫式部のお墓と伝えられている、堀川北大路下る西側にあるこの場所は、邸宅跡と違って、あまり知られていないのかもしれません。お墓ですのに、不思議なくらい明るい雰囲気で、ご興味がおありの方はこちらのお参りもおすすめです。この日は、お墓の傍らにある柘榴の花の周りを揚羽蝶が優雅に飛んでいました。

実は、柘榴の花の中にも星の形を見ることができます。
花びらが散って現れる萼(がく)が小さな星の形をしていて、これもまた可愛く魅力的なのです。
夏の日差しの中、朱色の星々と遊ぶように舞う揚羽蝶。
紫式部でしたら、この艶やかな情景をすぐに見事な歌にすることができたことでしょう。

式部様、夏の星の瞬く空の上、今も学問や創作に励んでいらっしゃるのでしょうか。
私たちも身分や立場に関係なく、自由に学問や創作ができる素晴らしい時代になりました。
感謝してしっかりと努めますので、どうかこれからも温かく見守っていてくださいね。

この記事を書いた人
定家亜由子
 
京都在住の日本画家。伝統画材にて花を描く。
高野山大本山寶壽院 襖絵奉納
白沙村荘 橋本関雪記念館 定家亜由子展等、個展多数。
画文集『美しいものを、美しく 定家亜由子の日本画の世界』(淡交社) 刊行。  
 

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