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想像力こそ普遍の美 庭園に、料理に、和菓子に宿る「みたて」の美学

絵師が手がけた「理想郷」 枯山水の庭を読み解く

ものを本来のそれとは別の何かになぞらえ、芸術や表現をより豊かで多様にする「みたて」という手法。茶の湯やいけばな、噺(はなし)家の扇子から果実をうつわにした料理まで、日本文化のいたるところに「みたて」の美学は息づいています。「みたて」は伝え手と受け取り手の、言葉なきコミュニケーション。表現者が何を何にみたて、どんなメッセージを伝えようとしているのか。私たちは見て、感じて、味わって、想像力をふくらませて受け取らなければなりません。

庭園の見どころを案内する「御庭植治」次期12代目・小川勝章さんと、俳優の常盤貴子さん。妙心寺塔頭(たっちゅう)「退蔵院」の池泉回遊式庭園「余香苑(よこうえん)」にて© KBS京都/TOKYO MX/BS11

「枯山水はみたての庭」と作庭の名門「御庭植治」の次期12代目・小川勝章さんは語ります。

「石をお山にみたてる。苔(こけ)を陸地に、白い砂を水にみたてると、清らかな水が流れて大海原に注ぎ込むような……。そんな目線で眺めていただくと、また違った物語が見えてくる。枯山水というのはそういったお庭です」

「退蔵院」で500年守られる枯山水庭園「元信の庭」© KBS京都/TOKYO MX/BS11

臨済宗妙心寺派の大本山・妙心寺の塔頭(たっちゅう)の一つ「退蔵院」で、500年続く庭として知られる「元信の庭」を前にそう話す小川さん。均整のとれた構成と平らな石を多用した石組みが安定感を醸し出す「元信の庭」は、作庭家ではなく室町時代の絵師・狩野元信(かのうもとのぶ)が手がけたもの。絵師ならではの美意識を、「退蔵院」の副住職・松山大耕さんはこう話します。

「絵というのは変わらないですよね。そういった絵の世界を、あえて変わっていく(自然の)中に普遍の美を求めた。そこに元信の浪漫があると私は思うんです」

「退蔵院」の副住職・松山大耕さん。毎朝「元信の庭」を掃除し「普遍の美」を保つ。「座ってする座禅も大切ですが、動いてする禅、それが掃除の意味」と語る© KBS京都/TOKYO MX/BS11

絵のように、流れゆく水や壮大な大陸の姿を美しいままとどめることができたら……。みたてることを駆使して作られた枯山水の「元信の庭」は、彼の理想郷。そして、みたてられた景色を読み解く、人間の想像力こそ普遍の美と讃(たた)えているようにも思えます。

みたてる、想像する そのための「余白」が導く美

「退蔵院」のもう一つの庭、作庭家・中根金作氏の手がけた池泉回遊式庭園「余香苑(よこうえん)」。隣接する茶席「大休庵(あん)」では、「ミシュランガイド京都・大阪」で一つ星を獲得した精進料理店「阿じろ」が手がける精進ランチをいただくことができます。禅の思想にならい、肉や魚を使わず調理する精進料理ですが、質素なイメージとは裏腹に、その見た目は実に華やか。「季節感」「温かいものは温かく、冷たいものは冷たく」「心をこめる」といった先代からの教えを忠実に守り、一品一品丁寧に作られています。

「阿じろ」が手がける精進ランチ、コースの一例。盛り付けやあしらいに季節感が漂う© KBS京都/TOKYO MX/BS11

果実を丸ごとうつわにみたてた「焼きりんごの白和(あ)え」、イガ栗を表現した八寸の一品、きなこを使った「達磨(だるま)うどん」……。植物性の食材だけを使って、いかに滋味深く、奥行きのある味を生み出すか。先人の知恵に加え、料理人たちは工夫を凝らし、惜しむことなく手間をかけてきたのでしょう。

愛らしいイガ栗の一品は、じゃがいもの衣とシューマイの皮をまとわせたもの。果実をくりぬいたうつわも風情がある© KBS京都/TOKYO MX/BS11

以前、精進料理の料理教室を取材した際、「食材は無駄なく使い切ること」と教わりました。皮やヘタも巧みに利用した美しい盛り付けが物語るのは、素材をけっして無駄にしない精進料理の精神。もちろん、みたての美も宿ります。

床の間の前から「元信の庭」を眺めると、ちょうど枯山水の滝が窓に切り取られる© KBS京都/TOKYO MX/BS11

枯山水で「普遍の美」の風景を描いた「元信の庭」。素材を余すことなく使い、肉や魚に代わる食材を工夫する精進料理。そういえば「塩芳軒(しおよしけん)」の京菓子「雲錦(うんきん)」も、色でもみじと桜を表し、咲き合うはずのない夢の景色を表現したものでした。「塩芳軒」5代目当主・高家啓太さんはこう話していました。

「京菓子は何か余白を残した状態でお出しさせていただく。余白があるということは、そこに答えがない。だから銘が付くことだったり、想像力によって、そのものがテーマに合わせたものとして見えてくる。それが京菓子の楽しいとこではないのかなと思います」

「平安神宮 神苑(しんえん)」を歩く常盤貴子さん。「庭園を楽しむコツは、作庭家が残したヒントを見つけること」と発見したという© KBS京都/TOKYO MX/BS11

みたてることで、想像はふくらみ、現実を超えた夢を見せてくれます。時代を超え、言葉を超えて、美は普遍となる。古都のあちこちにちりばめられた「みたて」の視点は、永遠の美を夢見た人々からのメッセージなのかもしれません。

京都画報 庭園を愉しむ
BS11オンデマンドにて11月28日12時まで無料で視聴可能。会員登録は不要です。

【次回放送予定】
■京都画報 第3回 京の和菓子
KBS京都:12月7日(火)よる8:00~8:55
BS11:12月8日(水)よる8:00~8:54
TOKYO MX: 12月12日(日)午前11:00~11:55

この記事を書いた人
大橋知沙 おおはし・ちさ 編集者・ライター
 
東京でインテリア・ライフスタイル系の編集者を経て、2010年京都に移住。 京都のガイドブックやWEB、ライフスタイル誌などを中心に取材・執筆を手がける。 本WEBの連載「京都ゆるり休日さんぽ」をまとめた著書に『京都のいいとこ。』(朝日新聞出版)。編集・執筆に参加した本に『京都手みやげと贈り物カタログ』(朝日新聞出版)、『活版印刷の本』(グラフィック社)、『LETTERS』(手紙社)など。自身も築約80年の古い家で、職人や作家のつくるモノとの暮らしを実践中。  

朝日新聞デジタルマガジン&Travelに掲載
(掲載日:2021年11月16日)