ここからしか見えない京都
  
宮中文化に触れる常盤貴子さん © KBS京都/TOKYO MX/BS11

宮中文化に憧れて、御所から町衆へ 日本古来の「雅」の心

公家町は町衆にも身近な存在 宮中文化が広まった理由

京都市内の中心部に位置する、京都御所。その周りを取り囲む緑地公園・京都御苑は、京都人の憩いの場です。1869年まで御所には天皇が住まい、周辺に公家屋敷が立ち並んだ公家町が、かつての京都御苑の姿。しかも、天皇や公家は決して遠い存在ではなく、京都の文化の源となり人々の身近な存在だったといいます。

1331年に光厳(こうごん)天皇がここで即位されて以降、約500年間天皇が住まわれていた京都御所。現在緑地公園となっている京都御苑は御所を中心とした公家町だった © KBS京都/TOKYO MX/BS11

「実際は(公家町を)色んな商人が行商したりもしておりましたし、見物客も公家が御所に参内(さんだい)する場面を見るスポットがあったらしく、結構行き来が自由だったみたいですね。京都の町と御所が非常に親密な関係であったことは間違いないんですね」

江戸時代・幕末の現・京都御苑とその周辺の地図。公家屋敷が立ち並んでいたことがわかる © KBS京都/TOKYO MX/BS11

そう話すのは、衣紋道山科流若宗家・山科言親(ときちか)さん。平安時代後期より続く公家・山科家の30代目家元後嗣で、代々、衣紋道の家柄として、宮中の装束をあつらえたり着付けたりする役目を果たしてきました。私たちが古典文学を元にしたテレビドラマなどで目にする十二単(じゅうにひとえ)などの宮中装束の着付けは、特別な技術と知識が必要なもの。山科さんは、皇室の儀礼などで装束の着付けを務めるほか、宮中文化の研究者としても活動しています。

十二単の略装「小袿(こうちぎ)」を前に話す、衣紋道山科流若宗家・山科言親さん(右) © KBS京都/TOKYO MX/BS11

「(御所や公家町との)密接なつながりの中で、(町衆も)御所の文化の影響をたぶんに受けていく。それがまたさらに色んな地域の方が憧れて、宮中由来の文化が波及していく。というのが江戸時代の京都の文化。(御所は)まさにその核だったということが言えると思います」(山科さん)

ひな人形、京扇子…… 今に伝わる「雅」の心

3月の風物詩であるひな人形も、宮中文化に端を発するものの一つです。厄災を人の身代わりとなって引き受けてくれる人形を川に流す「流しびな」という行事や、平安時代に公家の子どもたちが遊んだ「ひひな遊び」などが起源となったと伝わる、ひな人形。江戸時代中期に誕生した「有職雛(ゆうそくびな)」は、装束から化粧まで、平安時代の公家の夫婦の姿を忠実に再現したひな人形です。

成人女性の印である引眉の化粧、公家の男性の正装である烏帽子(えぼし)など細かな装飾品も再現された「有職雛(ゆうそくびな)」© KBS京都/TOKYO MX/BS11

江戸時代の人々にとっても、宮中文化は日本文化のルーツであり憧れだったのでしょう。おひな様がまとうのは「小袿(こうちぎ)」という十二単の略装。着物の色の重なりで季節や雅を表現した「襲(かさね)の色目」も、コミュニケーションやマナーに欠かせなかった扇も、ミニチュアながら精巧に表現されています。それらはすべて分業制で、織物、小道具、着付けや髪結いにいたるまで、さまざまな職人の手により作られてきました。

「それだけの職人さんが実際に京都にいらっしゃったからこそ、こうした品格の高い人形が実現できたわけですね」(山科さん)

1823(文政6)年創業の「宮脇賣扇(ばいせん)庵」を訪ねる常盤貴子さん © KBS京都/TOKYO MX/BS11

京の職人が支えてきた、宮中の生活様式に欠かせないものの一つとして、扇子があります。扇子の骨組みとなる竹の加工から紙の貼り付け、絵付けなど、製作には87もの工程を経るという京扇子。1823(文政6)年創業の「宮脇賣扇庵」では、皇室の公式行事で使われる扇子を手掛けるほか、京都画壇の重鎮らと親交を深めつつ芸術品としての京扇子を作りあげてきました。

皇室の公式行事や祇園祭で用いる扇子のほか、さまざまな京扇子を手掛ける  © KBS京都/TOKYO MX/BS11

「宮脇賣扇庵」本店の2階にある天井画は、1902(明治35)年、3代目・宮脇新兵衛が交流のあった48名の日本画家に扇の絵図を描いてもらったもの。美術館に所蔵されていても不思議ではない美術品ながら、誰でも訪ねることができる店舗の2階に飾っていることについて、8代目・南忠政さんはこう話します。

「貴重なものではあるんですけれども、これからも大切にしながら、みなさんの目に触れていただけるようにしていきたいなと思っています」

富岡鉄斎、竹内栖鳳などそうそうたる顔ぶれの画家が扇子の絵図を寄せた天井画 © KBS京都/TOKYO MX/BS11

宮中文化は、今も私たちの身近にあります。今では日本中で飾られるひな人形、京都の街で当たり前に出会える職人の技や美術工芸、そして京都の人々のオアシスとして街の中心であり続ける京都御苑。平安貴族が生み出した「雅」は、別世界の昔話ではなく、今の私たちの暮らしと地続きにあるのです。

【次回放送情報】
■京都画報 第6回「御所文化の薫り」
BS11にて3月9日(水)よる8時~放送

京都の地で大きく花開いた雅な文化に触れてみませんか?約1000年の長きにわたって日本の都だった京都。794年の桓武天皇による平安京遷都によって、京都御所を舞台に天皇や貴族による宮中文化が花開き、かな文字をはじめとする日本ならではの文化・芸術が誕生しました。御所の儀式や暮らしの中で使われた調度品や生活道具は、天皇や貴族たちの洗練された感性と京都の町衆の匠の技によって磨かれ、京都の文化を育む礎になりました。3月の京都画報では、今も京都のまちに受け継がれている、華麗なる御所文化の世界へ、俳優の常盤貴子さんがご案内します。

※ 放送後、BS11オンデマンドにて3月13日正午~ 2週間限定で見逃し配信いたします。

この記事を書いた人
大橋知沙 おおはし・ちさ 編集者・ライター
 
東京でインテリア・ライフスタイル系の編集者を経て、2010年京都に移住。 京都のガイドブックやWEB、ライフスタイル誌などを中心に取材・執筆を手がける。 本WEBの連載「京都ゆるり休日さんぽ」をまとめた著書に『京都のいいとこ。』(朝日新聞出版)。編集・執筆に参加した本に『京都手みやげと贈り物カタログ』(朝日新聞出版)、『活版印刷の本』(グラフィック社)、『LETTERS』(手紙社)など。自身も築約80年の古い家で、職人や作家のつくるモノとの暮らしを実践中。  

朝日新聞デジタルマガジン&Travelに掲載
(掲載日:2022年3月3日)

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