ここからしか見えない京都
  
©KBS京都/TOKYO MX/BS11

名工が生み出す多彩な漆工芸

木の特性を活かした味わい深い造形

京都府の伝統工芸士は、900人以上と全国でも最多。歴史に培われた伝統工芸品の中で今回は漆工芸に注目し、常盤貴子さんが3人の名工に出会います。

宇治市に工房を構える村山明さんは、木工芸の分野で2003年に重要無形文化財保持者(人間国宝)に認定されました。加飾的なイメージが強い漆塗りですが、村山さんの作品は、「拭き漆」という木目を出すための漆の塗り方が特徴。木地に漆を塗っては拭き取るという作業を幾度となく繰り返し、木目を活かした透明感のあるツヤを生み出します。なんと塗った漆はほとんど拭き取ってしまうのだとか。こうした繊細な工程によって木地が傷つくのを防ぎ、長年の使用に耐える強さを与えるのだそう。

漆を塗っては拭く作業を行う村山さん。この工程だけでも15~20回ほど繰り返すのだという ©KBS京都/TOKYO MX/BS11

この拭き漆は、村山さんが師と仰ぐ木工・漆芸家で、人間国宝の黒田辰秋さんの技法。村山さんが師のもとで学んだものは、イメージ通りの形を生み出すため木と真摯に向き合う仕事の作法でした。作品は一見、美しくシンプルですが、よく見ると、複雑な線の組み合わせでできていることに気づきます。漆の光沢が木工の線の組み合わせを際立たせ、シンプルながら味わい深い造形を生み出しています。

艶やかな光沢に美しい木目が浮き彫りにされた村山さんの作品。緻密に計算された造形の中に遊び心を潜ませた作風が特徴 ©KBS京都/TOKYO MX/BS11

アクセサリーから食卓の器まで

拭き漆の系譜に新たなページを刻む若手作家・安成晶(やすなり・あき)さんは、大好きなアクセサリーを通して、独学で学んだ拭き漆の魅力を伝えています。現在展開しているブランド「hoshikage works」は、“宇宙に瞬く星のように誰かのもとで輝いてほしい”という願いを込め、1つひとつじっくりと手作り。木地はヒノキを使っているので、風に揺れるほどの軽さです。まるで宝石のように見えるアクセサリーは何層も漆を重ね、独特の透明感を生み出しています。鮮やかな色だけではなく、複雑な曲線を組み合わせた形状が、作品に温もりと生命感を与えています。

「若者にとって漆がもっと身近になれば」と、普段使いを意識しながら制作しているという安成さん ©KBS京都/TOKYO MX/BS11
「時間の経過とともにさらに透けて、木目がよりはっきり見えてきたりと、その表情の移り変わりが楽しい」という安成さん ©KBS京都/TOKYO MX/BS11

漆芸作家の川勝五大(かわかつ・ごだい)さんの作品は、飲食店や家庭の食卓で使われる器が中心。材料の桐の木は自ら山に入り、伐り出してきたものを3年かけて乾燥させて、削って器の形へ。塗りの工程は大きく分けて3つあり、まずは木地に薄い布を貼り、強度を高めるとともに独特の風合いを出します。布を貼り終えた器には色の付いていない生漆(きうるし)を6回ほど塗り重ね、最後は色の付いた漆で本塗りです。丸みを帯び、ぽってりとした形の温かみのある器は、まるで土で作られた陶器のよう。

川勝さんの父であり、師でもある英十津(ひでとつ)さんに、自慢の手打ちうどんを振る舞われた常盤さん。使ってこそ真価が問われる漆器のすばらしさを実感 ©KBS京都/TOKYO MX/BS11
漆が塗り重ねられ、ぽってりとした形に温かみを感じる川勝さんの作品。使い込むほどに味わいが増していくという ©KBS京都/TOKYO MX/BS11

漆と木という共通の素材でも、それぞれの名工によって多彩な作品が生み出される京都の漆工芸。表現の幅広さと魅力に、改めて感動させられた常盤さんでした。

【次回放送情報】
■京都画報 第28回「京都・手しごとの逸品-一生モノの漆工芸-」
BS11にて1月8日(月・祝)よる7時00分~7時55分放送
出演:常盤貴子

※ 放送後、BS11+にて1月14日(日)正午~ 2週間限定で見逃し配信いたします。

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