ここからしか見えない京都
  

読んで楽しむ空想京都さんぽ。京都のローカル線・叡山電車で「左京区」途中下車の旅

これまで連載でご紹介してきたスポットをエリア別にピックアップし、空想の京都さんぽにお連れします。気になるエリアをどんなコースで巡ろうか、考えるのにぜひ参考にしてみてください。第7回は、京都のカルチャーゾーン「左京区」エリア。京都の人が親しみを込めて「叡電(えいでん)」と呼ぶローカル電車に乗って、途中下車しながら散策してみましょう。

■暮らすように、小さな旅にでかけるように、自然体の京都を楽しむ。朝日新聞デジタルマガジン&Travelの連載「京都ゆるり休日さんぽ」はそんな気持ちで、毎週金曜日に京都の素敵なスポットをご案内しています。 (文:大橋知沙/写真:津久井珠美)

読んで楽しむ空想京都さんぽ。第1~6回はこちら
(1)センスの良い個人店が集まる「御所南」エリアへ
(2)旅の起点にも終点にもなる「京都駅」エリアへ
(3)「北野」エリアで甘いもの巡り
(4)「四条・烏丸御池」街なかごはん朝昼晩
(5)自然の心地よい京都のカルチャーエリア「岡崎」へ
(6)納涼床が並ぶ眺めも京都らしい「三条大橋」エリアへ

※営業状況が変更されている場合があります。ご注意ください。

古きよきパリの学生街のカフェの空気が流れる

「鴨川デルタ」と呼ばれる三角州が京都人の憩いの場でもある、出町柳。叡電はここ出町柳駅が始発ですが、電車に乗る前にひと足延ばし、古きよき喫茶店に立ち寄ってみましょう。「進々堂京大北門前」は、1930(昭和5)年の創業以来、京都の学生たちの居場所であり続けてきた喫茶店。創業者の続木斉氏は、日本で初めてパン職人としてフランスに留学した人物として知られます。パリの学生街、カルチエラタンで続木氏が目にしたのは、カフェで自由に議論を交わす若者たちの姿。「進々堂京大北門前」は、まさにそんなカルチエラタンのカフェをイメージしてつくられた喫茶店でした。

創業時のまま、修繕しながら大切に使われているタイル張りのカウンター

木工・漆芸家の黒田辰秋氏が制作した図書館のような重厚なテーブルや、「学問は自己を超越する」とフランス語が彫られたパンのショーケース、カウンターや床のタイルなど、店内はモダンでアカデミックな当時の内装がそのまま残ります。現在店を切り盛りするのは、続木氏のひ孫にあたる4代目・川口聡さん。修繕と保持に手を尽くしながら、創業時の姿を守り続けています。川口さんはこう話します。

「スマホが普及しても、うちのお客さんはあまり変わらないように見えますね。勉強したり、本を読んだり……。だからいつ来ても同じ空気を感じてもらえるように、なるべく創業時の姿を残していきたいと思っています」

「カレーパンセット」(830円・税込み)は、勉強や読書しながらでも片手で食事ができるようにと考案された。コーヒーはあらかじめミルクが入ったスタイル

いつ訪れても変わらない空間は、それを守る人の存在があってこそ。心落ち着く空間で、学生たちは今日も、ミルク入りのコーヒーをかたわらに机に向かっています。

進々堂京大北門前
京都市左京区北白川追分町88
075-701-4121
8:00~18:00 火曜定休

■紹介記事はこちら
いつ訪れても心落ち着く。パリの学生街のような喫茶店「進々堂京大北門前」

遠くの生産地へ、コーヒーの旅に思いをはせるカフェ

焙煎(ばいせん)機が置かれ、店内にはいつもコーヒーの香りが漂う

茶山駅方面に足を延ばし、「THE SITE」という元美術学校をリノベーションした複合ビルの一室にあるカフェが「珈琲焙煎所 旅の音(タビノネ)」。店主の北辺佑智(きたべ ゆうち)さんが自らコーヒーの生産地へ赴き、栽培方法や品質のディレクションから買い付け、焙煎までを行う、この店ならではのスペシャルティーコーヒーを味わえます。「甘み」を大切に作られる「旅の音」のコーヒーは、コーヒー特有の苦みやコクは控えめで、甘い香りやフレッシュな果実感が感じられるもの。看板メニューのコーヒーゼリーも、すっきりと爽やかなコーヒーの後味が生きた一品です。

「コーヒーゼリーパフェ」(900円・税込み)。さっぱりとしたコーヒーゼリーに、トップのビスケットと焼きマシュマロで甘さを加えて

カフェだけでなく、豆の販売とテイクアウトのコーヒーを提供する姉妹店「MAMEBACO」、オンラインショップ「コーヒーと生活。タビノネ」、焙煎教室など多彩な活動を行う北辺さん。その根底には「コーヒーに関わる人を幸せにしたい。生産地を身近に感じてもらいたい」というひたむきな思いがあります。遠い国で実ったコーヒーチェリーが1杯のコーヒーになるまで、旅の物語に耳をすますようにじっくりと味わってみてください。

珈琲焙煎所 旅の音
https://coffee.tabinone.net

■紹介記事はこちら
コーヒーの生産地を旅するように。カフェ「旅の音」で甘い一杯を

世界中の本好きが訪ねる、左京区の文化発信地へ

地元客はもちろん世界中から本好きが集まる。2010年にはイギリスのガーディアン紙による「世界で一番美しい本屋10」に日本で唯一選ばれたことも

一乗寺駅を降りたら、目指すは「恵文社一乗寺店」。京都の左京区カルチャーを牽引(けんいん)してきたセレクト書店です。本をジャンルや作家別にカテゴライズするのではなく、スタッフが独自の視点で書棚を編集するスタイルは、いつ訪れても思いがけない本との出合いや発見があります。背表紙を眺めるうちに好奇心の扉を次々とたたかれ、紙の手触りや装丁の美しさを体感すると「本屋で本を探す」楽しみに胸が高鳴るはず。大型書店やネットには流通しない本や、個人や小さな編集チームが発行するリトルプレスなどが並ぶのも魅力です。

古い書斎のような雰囲気が落ち着く空間。特装本や部数限定の希少本も並ぶ

暮らしまわりの雑貨とともに本を提案する「生活館」、アートやクラフト、洋服などさまざまな展示を行う「ギャラリーアンフェール」、不定期カフェやトークイベントなどを行うイベントスペース「COTTAGE(コテージ)」と、多彩な空間はすみずみまで本とカルチャーの世界を堪能できるもの。気がつけば2時間、3時間と時を過ごしてしまうことも少なくないので、旅行中の人は帰りの時間にご注意くださいね。

恵文社一乗寺店
http://www.keibunsha-books.com

■紹介記事はこちら
世界中から本好きが集まる京都の名物書店「恵文社一乗寺店」

美しい古書から現在進行形のテーマまで、本で時代を旅して

2年ほど前に西陣から一乗寺に移転。カルチャーに強い左京区だけあって以前からここにあったかのようになじんでいる

さて、本好きならもう一軒、恵文社一乗寺店から徒歩5分ほどの古書店を訪ねてみましょう。叡電の踏切のそばにたたずむ、ブルーの枠のガラス戸が目印の「マヤルカ古書店」は、ノスタルジックな雰囲気ながらも「今」の気風も漂う、多様でしなやかな書棚が魅力です。京都の本好きの蔵書を買い取りながら自然と集まってきたという本は、料理本や絵本、エッセーなどの手に取りやすいものから、文芸書や美術書まで実に多彩。店主のなかむらあきこさんが「蔵書を見ると、ひと目で大切にされてきた本なんだなとわかります」と話す通り、誰かの価値観や生き方に影響を与え、役目を終えてここに並んでいるのだろうと想像させるタイトルばかりです。

店主のなかむらあきこさん。古本好き3人が共同で営んでいた古書店を経て、独立。執筆活動も行っている

2階では、不定期で雑貨やクラフト、写真などの展示を行うほか、ジェンダーやフェミニズムをテーマに選書した新刊コーナー「HERS BOOK STAND」も。なかむらさん自身のコラムやおすすめの本などを記したフリーペーパー「COVID-19後の社会とフェミニズムを考えるZINE」も多くの共感を集めています。絶版本や美しい装丁、当時の世相を映す描写など、古書ならではの楽しみに出合える一方で、現在進行形の思想やムーブメントにふれるきっかけにもなる一軒です。

マヤルカ古書店
http://mayaruka.com

■紹介記事はこちら
暮らしに寄り添う本も、人生を変える本も。京都「マヤルカ古書店」


叡山電車沿線は、「京の奥座敷」とも呼ばれる貴船神社や夏の川床、天狗(てんぐ)伝説で知られる鞍馬寺、リフレクションの青紅葉で有名な「瑠璃光院」など、山と渓谷の自然美でリフレッシュできるスポットもたくさん。左京区のカルチャースポットと併せて、ぜひ途中下車の旅を楽しんでみてください。

この記事を書いた人
大橋知沙 編集者・ライター
 
東京でインテリア・ライフスタイル系の編集者を経て、2010年京都に移住。 京都のガイドブックやWEB、ライフスタイル誌などを中心に取材・執筆を手がける。 本WEBの連載「京都ゆるり休日さんぽ」をまとめた著書に『京都のいいとこ。』(朝日新聞出版)。編集・執筆に参加した本に『京都手みやげと贈り物カタログ』(朝日新聞出版)、『活版印刷の本』(グラフィック社)、『LETTERS』(手紙社)など。自身も築約80年の古い家で、職人や作家のつくるモノとの暮らしを実践中。  
この記事の写真を撮影した人
津久井珠美 写真家
 
大学卒業後、1年間映写技師として働き、写真を本格的に始める。 2000~2002年、写真家・平間至氏に師事。京都に戻り、雑誌、書籍、広告など、多岐にわたり撮影に携わる。  

朝日新聞デジタルマガジン&Travelより転載
(掲載日:2020年6月19日)