ここからしか見えない京都
  
© KBS京都/TOKYO MX/BS11

100年先もいま一時も 京の美意識に共通する「時の美」〈後編〉

※〈前編〉からつづく

旬の食材、季節の景色 消えゆくからこそ美しい

京都の文化を守る人々は100年先の未来を意識していますが、その時その瞬間にしか体験できない「刹那(せつな)の美」もまた、欠かせない京都の美意識です。その最たるものが、食ではないでしょうか。さまざまな食材が通年で手に入りやすくなった現代においても、「旬のものを旬の時期に味わう」ことを、京都の人はことさらに大切にしています。

「瓢亭(ひょうてい)」の懐石料理の先付け、「松茸(まつたけ)と水菜のおひたし」。食用ギク「もって菊」の花弁を散らして© KBS京都/TOKYO MX/BS11

マツタケ、ギンナン、キクの花……。季節の色と香りをちりばめた「瓢亭(ひょうてい)」の料理も、刹那の食の美そのもの。450年の歴史の中で培われた「瓢亭たまご」や「明石鯛(たい)のお造り」といった定番料理がある一方で、その季節にしか味わえない旬の食材を用意することは、客人への最上級のもてなしです。食べてしまえば、膳の上の季節の景色は一瞬で消えてしまう。その儚く美しいひと時のために、料理人は心を尽くすのです。

華道未生流笹岡(みしょうりゅうささおか)の3代家元・笹岡隆甫(りゅうほ)さんのいけばな。朱色に色づく葉や秋草に秋の野が表現されている© KBS京都/TOKYO MX/BS11

京都の四季が織りなす風景もまた、今しか見ることができない刹那の時を味わう美です。桜も紅葉も、いつか散りゆくとわかっているからこそ、私たちはその情景に胸を打たれます。自然からのギフトを、ほんのひと時、暮らしに分けていただきたいと願って、花を生け、旬を食し、季節の色に染まる社寺に足を運びます。

一瞬の美しさを尊びつつ、100年後の未来に心を砕く

100年も、一瞬も。同じくらいに京都の人は尊び、その時間軸こそが京都を京都たらしめているように、私は思います。今しか味わえない自然の恵みがあり、うつろいゆくからこそ心を揺さぶる景色がある。文化の継承や街づくりに100年先の未来を見据えるのは、時は流れ、時代は変わりゆくものと知っているからです。

「開化堂」の手がけるカフェ「Kaikado cafe」のカーテンは、西陣織の老舗「細尾」のファブリック© KBS京都/TOKYO MX/BS11

「着物のマーケットがこの30年で10分の1になって、なくなることはないにしても、この先50年、100年続けていくためには、新しい挑戦をする必要があると思ったんです」

そう話すのは、西陣織の老舗「細尾」12代目である、細尾真孝さん。西陣織の技術や素材をテキスタイルやインテリアに応用し、海外を中心としたラグジュアリーマーケットから熱い支持を集めました。

「細尾」12代目・細尾真孝さん。和柄や商品にとらわれず、西陣織の素材と技術を強みとすることで海外への活路を見出した© KBS京都/TOKYO MX/BS11

「西陣織の歴史は1200年。その間、ひたすら美を追い求めてきた。今、美しいものってなかなか機能としてとらえられないところもありますが、美は最大の機能だと思います。美しいものを求めて1200年間、それだけ、美しいものは人を豊かにしますし、場合によっては人のふるまいも変わるかもしれない。そう信じています」

京都はまもなく紅葉のシーズンを迎える。色づきはじめから散りもみじまで、限りある美だからこそ胸を打つ© KBS京都/TOKYO MX/BS11

美しいものは、一瞬で消えてしまうはかなさを秘めています。そのはかなさを嘆くのではなく、賛美し、敬い、暮らしに取り入れることは日常を照らす光です。一方、美しいものの美しさを信じ、自分たち亡き後の世代まで見据えて手を動かし続けることでこそ、築かれる美もあります。それは、人の営みと街の歴史、時間の層が作り上げた、京都という街の奇跡。1200年の時が育んだ街の中に、きらめく一瞬の光も、人々の歩みも文化の軌跡も詰まっている。京都が私たちの心をとらえてやまないのは、そんな理由なのかもしれません。

【配信情報】
京都画報 京の美意識
BS11オンデマンドで無料見逃し配信中
(2021年10月27日 よる9時まで)

この記事を書いた人
大橋知沙 おおはし・ちさ 編集者・ライター
 
東京でインテリア・ライフスタイル系の編集者を経て、2010年京都に移住。 京都のガイドブックやWEB、ライフスタイル誌などを中心に取材・執筆を手がける。 本WEBの連載「京都ゆるり休日さんぽ」をまとめた著書に『京都のいいとこ。』(朝日新聞出版)。編集・執筆に参加した本に『京都手みやげと贈り物カタログ』(朝日新聞出版)、『活版印刷の本』(グラフィック社)、『LETTERS』(手紙社)など。自身も築約80年の古い家で、職人や作家のつくるモノとの暮らしを実践中。  

朝日新聞デジタルマガジン&Travelに掲載
(掲載日:2021年10月22日)