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お餅もトーストもパリッと香ばしく。京金網「辻和金網」の暮らしの道具たち

お正月の残りのお餅や朝食のトーストが、パリッと香ばしく焼けた。そんなささいなことで、幸せな気持ちになりませんか? 今回ご紹介するのは、1933年創業の京金網の専門店「辻和(つじわ)金網」。パンやお餅を直火でこんがり焼き上げる焼き網や、茶こし、コーヒードリッパーなど、暮らしの道具を昔ながらの技法で編み上げる、職人の手仕事の品がそろいます。

■暮らすように、小さな旅にでかけるように、自然体の京都を楽しむ。朝日新聞デジタルマガジン&Travelの連載「京都ゆるり休日さんぽ」はそんな気持ちで、毎週金曜日に京都の素敵なスポットをご案内しています。 (文:大橋知沙/写真:津久井珠美)

京金網の技を守りながら、ライフスタイルに合ったものづくりを

左:「手付焼網(受け付)」(大・正方形4400円)。右:「銅手編み 足付焼網」(8800円)と「焼網受」(2090円)。いずれも税込み

焼き網をコンロの上に直接乗せて、点火。トーストなら片面1、2分、お餅なら4、5分ほど。あっという間に、外はパリッと、中はふんわり・もっちりのトーストや焼き餅が完成します。この手付き焼き網は「辻和金網」で一番の人気者。手軽で場所を取らず、一人暮らしやアウトドアにも便利な頼れる暮らしの道具です。

さまざまな商品を並べつつ、奥の座敷では職人が作業を続ける工房兼店舗

平安時代に生まれ、明治以降さかんに作られるようになった京金網工芸。辻和金網もその隆盛期に創業し、以来3代に渡って職人の技を受け継いできました。安価なプラスチック製品の普及とともに同業者が次々と店をたたむなか、使い手の声に丁寧に耳を傾け、のれんを守ること八十余年。

「手編みコーヒードリッパー」(小・5500円〈税込み〉)。写真の銅のほかステンレス製も

元は作業場のみだったこの場所ですが、製作中にお客さんがのぞきに来て、商品を買って帰ることもしばしば。3代目・辻泰宏さんの結婚を機に、現在も現役の職人である先代と2世帯で職住一体の暮らしを整え、一般のお客様でも入れる店舗に改装しました。料理人の多い京都で、京金網は主にプロ向けの調理器具に重宝されてきたもの。しかし、辻和金網はプロ向けだけではなく、一般家庭で使う人の声も採り入れ、ライフスタイルに合った京金網の形を提案してきたのです。

使い心地と丈夫さから生まれる“用の美”

3代目・辻泰宏さん。先代である父と自身の息子と一緒に製作にはげむ

「僕ら、料理家さんや編集者さんが買いに来てくれはっても気づかへんことが多いんですが……。雑誌やテレビで愛用品を紹介してくれたりして、ありがたいですね」と辻さん。実用に徹しながらも、手仕事のぬくもりと京金網の雅(みやび)が宿る意匠がメディアやSNSで話題を集め、着実にファンを増やしてきました。

水切りかごを作っているところ。フレームの溶接から側面を亀甲編みで仕上げ、組み上げるまですべて手作業

金網は、四角形の網目の機械編みと、針金をねじって亀甲形に編み上げる手編みがありますが、いずれも必ず人の手が加わります。機械編みの製品も、組み上げる際は一つひとつ手作業で。亀甲編みは、網目を均一に丈夫に編み上げられるようになるまで10年はかかる熟練の技です。一度にたくさんは作れないから、商品によっては1年以上待つものも。それでも、丈夫で機能的で美しく、長く使える職人の道具を「待ってでもわが家に」とオーダーする人があとを絶ちません。

「水切りかご」は受注生産で現在1年半待ち。毎日使うからこそ、丈夫で美しいものをと人気
隠れた人気商品「丸網足付」(左)は4サイズ展開で、2750円〈税込み〉~。鍋にセットすれば簡単に蒸しものができる。ケーキクーラーに、鍋しきにと万能

「商品のアイデアは、お客さんの『こんなんあったらええな』というご意見から生まれることが多いです。焼き網も亀甲の手編みが欲しいとか、洗い物の水切りかごが欲しいとか。作るときは、何よりも使い勝手の良さ、丈夫さを考えて作ります。丈夫さのための作業が結果的にデザインになっていたりしますね」

そう話す辻さんの言葉には、あくまでも道具としての本質を見つめ、使う人の暮らしに寄り添う実直さがにじみます。

盛りかごはいくつかの編み方を組み合わせて作る。見た目の美しさだけでなく、竹枠をはめる際の高さを調節する役割も。丈夫さ、均一性を重視した意匠に美しさが宿る

丈夫で長持ちし、壊れたら修理してもらえる。銅は使うほどに味わいのある色に変化し、ステンレスはサビや汚れに強く手入れが簡単。何度も買い替えるのではなく、長く“付き合う”道具であることで、その使い心地やすぐれた意匠は、人から人へと伝わります。新しい年の始まりに、身近な台所道具から、美しくサステイナブルなものを暮らしに採り入れてはいかがでしょう。

辻和金網
http://www.tujiwa-kanaami.com

この記事を書いた人
大橋知沙 編集者・ライター
 
東京でインテリア・ライフスタイル系の編集者を経て、2010年京都に移住。 京都のガイドブックやWEB、ライフスタイル誌などを中心に取材・執筆を手がける。 本WEBの連載「京都ゆるり休日さんぽ」をまとめた著書に『京都のいいとこ。』(朝日新聞出版)。編集・執筆に参加した本に『京都手みやげと贈り物カタログ』(朝日新聞出版)、『活版印刷の本』(グラフィック社)、『LETTERS』(手紙社)など。自身も築約80年の古い家で、職人や作家のつくるモノとの暮らしを実践中。  
この記事の写真を撮影した人
津久井珠美 写真家
 
大学卒業後、1年間映写技師として働き、写真を本格的に始める。 2000~2002年、写真家・平間至氏に師事。京都に戻り、雑誌、書籍、広告など、多岐にわたり撮影に携わる。  

朝日新聞デジタルマガジン&Travel
「京都ゆるり休日さんぽ」より転載
(掲載日:2020年1月10日)