ここからしか見えない京都
  

読んで楽しむ空想京都さんぽ。料理で、うつわで、コーヒーで。それぞれの世界観を味わう「五条」エリア

これまで連載でご紹介してきたスポットをエリア別にピックアップし、空想の京都さんぽにお連れします。気になるエリアをどんなコースで巡ろうか、考えるのにぜひ参考にしてみてください。第8回は、旅の玄関口・京都駅と市内随一の繁華街・四条の中間に位置する「五条」エリアをご案内します。

■暮らすように、小さな旅にでかけるように、自然体の京都を楽しむ。朝日新聞デジタルマガジン&Travelの連載「京都ゆるり休日さんぽ」はそんな気持ちで、毎週金曜日に京都の素敵なスポットをご案内しています。 (文:大橋知沙/写真:津久井珠美)

読んで楽しむ空想京都さんぽ。第1~7回はこちら
(1)センスの良い個人店が集まる「御所南」エリアへ
(2)旅の起点にも終点にもなる「京都駅」エリアへ
(3)「北野」エリアで甘いもの巡り
(4)「四条・烏丸御池」街なかごはん朝昼晩
(5)自然の心地よい京都のカルチャーエリア「岡崎」へ
(6)納涼床が並ぶ眺めも京都らしい「三条大橋」エリアへ
(7)京都のローカル線・叡山電車で「左京区」途中下車の旅

※新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、営業状況が変更されている場合があります。ご注意ください。

おおらかで素朴で力強い。河井寛次郎の暮らしの美を感じて

寛次郎が好んだ餅花が飾られ、木彫や書、椅子などの作品が並ぶ囲炉裏

清水焼の窯元が多く、陶器まつりでも知られる五条坂。うつわ好き、民芸好きなら必ず訪れておきたいのが、五条坂の路地にたたずむ「河井寛次郎記念館」です。民芸運動の推進者でもある河井寛次郎の工房兼住居だったこちらは、おおらかで力強い寛次郎の作品や言葉、暮らしぶりをつぶさに感じられる場所。清水焼の繊細でみやびな作風とはガラリと印象の異なる、五条坂のもう一つの名所です。

晩年に熱心に取り組んだ木彫作品も部屋のあちこちに飾られる

館内には、寛次郎が自作の家具で家族や客人と囲炉裏を囲んだという居間、書斎や中庭、京都に現存する中では最大級の登り窯など、寛次郎の職住一体の生活を伝える空間がそのまま残ります。この部屋で、庭で、工房で、穏やかに流れる時間に身を任せれば、「暮しが仕事、仕事が暮し」という寛次郎の言葉が、しみじみと心に響くことでしょう。

河井寛次郎記念館
http://www.kanjiro.jp

■紹介記事はこちら
くらしの美を見つめた陶工の記憶 河井寛次郎記念館

「白い森」を思わせるミニマル空間で、フレッシュなコーヒーを

真っ白な空間にベンチのみ。ランタンの明かりと窓の外の緑が心地よい

五条坂から烏丸五条方面へ向かいます。少し距離があるので、タクシーやバス、レンタサイクルを利用しても良いでしょう。「walden woods kyoto」は、白いキューブ型の外観やテーブル席のない真っ白な空間が、クリーンですがすがしいコーヒーショップ。「白い森」をテーマにした余計なものが何もない空間は、コーヒーの味わいや一緒にいる人との会話に自然と集中しながら、心をフラットにリセットするような不思議な作用があります。

フローラルな香りと上品な甘みが印象的な、ウォールデンブレンド(400円)。カヌレ(250円)などスイーツもテイクアウト可能。いずれも税込み。(画像提供:walden woods kyoto)

ビンテージのドイツ製焙煎(ばいせん)機でローストするコーヒーは、シングルオリジンの浅煎りから、中浅煎り、中深煎り、カフェインレスまで、さまざまな好みに対応するラインナップ。テイクアウトも充実しているので、散歩の途中に立ち寄ったり、目の前の公園で木漏れ日の下で飲んだりと、楽しみ方はさまざま。京都のカフェ文化の新風を体験できるショップです。

walden woods kyoto
https://www.walden-woods.com

■紹介記事はこちら
白くミニマルな空間で味わうコーヒーと時間の豊かさ 「walden woods kyoto」

季節と文化をひと皿に。五感で味わう京割烹

亭主の宮澤政人さん。京都の名店で料理長などを務めたのち、2007年に「じき 宮ざわ」をオープン。「ごだん 宮ざわ」は2店舗目

夕食は、季節を映すようなひと皿に魅了される京割烹(かっぽう)で、夏の味覚を堪能することにしましょう。五条の閑静な住宅街にたたずむ「ごだん 宮ざわ」は、食通の間で絶大な支持を集める料理人・宮澤政人さんが営む料理店。季節の素材をシンプルに味わうことを基本としながらも、うつわに、しつらえに、ちょっとしたサプライズや組み合わせの妙を取り入れた献立に心動かされ、食べ終える頃には一幕の舞台を見終えたような充足感でいっぱいになります。

京都の夏の味覚・ハモは、初夏、盛夏、晩夏と時期に合わせた献立で提供。椀(わん)ものは1万4850円(税込み・サービス料別)のコースから
宮澤さんのスペシャリテ「焼胡麻(ごま)豆腐」を、「ごだん」では季節に合わせてアレンジしている。こちらはとうもろこしの天ぷらをちりばめたもの

京都の食文化と茶の湯の世界に魅了され、今も、美しいものとおもてなしの心を追い続けているという宮澤さん。目で、香りで季節を味わい、口にしてまた満たされ、美しいうつわや露にぬれた草花のしつらえに心潤す……。五感で味わうそのひと時には、京都の食文化と日本の美意識、そして「ごだん 宮ざわ」の心を尽くしたおもてなしが詰まっています。当面の間、カウンター席3組と個室1組ずつの予約にて営業。お取り寄せも行っているので、チェックしてみてください。

ごだん 宮ざわ
http://www.jiki-miyazawa.com/

■紹介記事はこちら
季節と文化をひと皿に。京都の夏の味覚を楽しむ「ごだん 宮ざわ」


五条坂・清水坂で、京都らしい風景や名所をめぐり、そこから五条通を西に向かえば、京都駅と四条通の繁華街に挟まれた住宅街の一角に、良質でセンスの良い店が点在します。駅ビルやショッピングビル、百貨店では出合えない、店主の世界観や美意識が詰まった店で、心豊かな時間を過ごしてみてください。

この記事を書いた人
大橋知沙 編集者・ライター
 
東京でインテリア・ライフスタイル系の編集者を経て、2010年京都に移住。 京都のガイドブックやWEB、ライフスタイル誌などを中心に取材・執筆を手がける。 本WEBの連載「京都ゆるり休日さんぽ」をまとめた著書に『京都のいいとこ。』(朝日新聞出版)。編集・執筆に参加した本に『京都手みやげと贈り物カタログ』(朝日新聞出版)、『活版印刷の本』(グラフィック社)、『LETTERS』(手紙社)など。自身も築約80年の古い家で、職人や作家のつくるモノとの暮らしを実践中。  
この記事の写真を撮影した人
津久井珠美 写真家
 
大学卒業後、1年間映写技師として働き、写真を本格的に始める。 2000~2002年、写真家・平間至氏に師事。京都に戻り、雑誌、書籍、広告など、多岐にわたり撮影に携わる。  

朝日新聞デジタルマガジン&Travelより転載
(掲載日:2020年6月26日)

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